CADseekの無限の可能性
1. 日本のものづくりにおける現状認識
日本の製造業は、精緻な設計力と緻密な技能に支えられ、長らく世界の製造品質をリードしてきた。しかしその背後には、「図面文化(二次元への依存)」と「熟練設計者の暗黙知」に強く根差した構造がある。
ベテラン設計者は、膨大な寸法線を持つ図面を頭の中で立体化し、瞬時に加工の難易度や時間を見積もる。これは日本の強みであり、職人技そのものだ。だが同時に、その知が人に宿り、データに残らないがゆえに、優れたものづくりを伝承し展開していくための再現性と共有性を欠く足枷ともなる。
結果として、似た製品を新たな担当者が一から設計し直す――「10年前の製品をもう一度作り直す」という非効率が多くの現場で発生している。また、製造や購買にも関わる重要な部品図面の管理が属人化されており、重複した図面番号や設計変更履歴の情報共有が行われていないなど、情報管理も依然として「文書管理=管理のための管理」で止まり、CADデータの形状や構造情報が十分に活かされていない。
日本の製造現場が再び競争力を高めるには、“人の頭の中”にある形状の知を、組織の知として活かすための仕組みが不可欠である。その鍵となるのは、「形状を扱う力」だ。
2. CADseekがもたらす「形状を軸とした情報活用」
日本のものづくりは、現場主導の継続的改善(カイゼン)と全員参加の品質管理(TQM) を基盤に、設計から生産・保守までを一貫して最適化する文化が根付いている。これを支えるのが PLMによる設計情報の一元管理 と、MESによる実績データの追跡であった。今日、現場の知見とデータを循環させることで、設計品質と工程品質の両立を図り、経営層から現場までが共通指標で改善を推進している。
しかし、図面・部品・工程データが部門やシステムごとに分断され、BOMや各種IDによる論理的紐づけだけでは実際の設計変更や類似品管理を追いきれない という課題が残る。特に「欲しい図面が見つからない」「過去設計の再利用が進まない」問題は顕著だ。この限界を克服する可能性を秘めるのが形状検索などコンテンツ指向の照合技術である。
類似形状検索「CADseek」は、あらゆる幾何学的形状を8バイト以下の軽量な数値で表現し、データベースとして管理・検索可能とする技術だ。これまでのCADデータ活用の枠を超え、「形状」を中心に据えた図面情報の探索・抽出を可能にする。単なる部品流用や設計支援にとどまらず、物流最適化、金型メンテナンス、全数検査の代替など、「形状 × 時間 × コスト × 品質」を結びつけた新たな価値軸を生み出す。
たとえば、過去の3Dモデルを参照して最適設計を導き出す。理想形状と実測形状を比較して品質ばらつきを定量化する。あるいは、同一形状をもつ部品を在庫や生産拠点から横断的に探し出す――。CADデータが単なる「設計資産」から、ものづくり経営を支える“武器”へと変わるのだ。
3. 組織・プロセス改革の可能性
類似形状検索技術であるCADseekは、単なる設計支援ツールに留まらず、 企業全体の情報の流れと意思決定の在り方を根本から変える力を持つ。その本質は人が目で見て行ってきた作業を増幅・徹底することにより、“設計データを資産として活かす”という思想を組織横断で実装できる点にある。
ここでは、CADseekが引き起こす4つのプロセス改革――設計・品質・調達・マネジメント――の姿を具体的に描く。
設計改革
ゼロから描く設計から、「過去を参照し未来を設計する」へ
日本の設計現場では、熟練設計者が頭の中に膨大な形状パターンと加工ノウハウを蓄積しており、しばしば「過去図面を探すより新しく描いたほうが早い」と言われる。しかしこの構造は、属人化と再発明の温床であり、組織として知識が蓄積しにくい。
CADseekの導入により、設計者は過去の3Dモデルや部品群を「形状で」検索できるようになる。似た形状のモデルを瞬時に見つけ出し、それに紐づく寸法、公差、材料、加工履歴、コスト情報を参照できる。これにより、新規設計の際に過去の成功設計・失敗設計の双方を踏まえた判断が可能になる。
たとえば、ある機械構造の支柱部を設計する場合、「荷重条件が近い過去案件」「同様の溶接構造を採用した部品」などをCADseekが提示し、 設計者は既存の3Dデータをベースに最適化を行う。結果として、設計スピードは向上し、試作回数や不具合発生率も減少する。また、若手設計者にとってはCADseekが「デジタル師匠」となる。熟練設計者が設計意図を残していなくても、形状の類似から過去設計CADデータを参照でき、そこに残された形状の変遷を参照することにより“思考の痕跡”を辿ることができる。ベテラン設計者であればあるほどそこには実際のものづくり、つまり加工手法や仕上げ品質に関連する知見が存在しており、製造手法が変わったとしても現場レベルで活かせる情報が存在している。これにより、経験知の継承がデータベース上で自然に行われるようになり、組織としての設計力が底上げされる。
形状を起点とした課題解決型設計への転換
ものづくりの現場では、自社の製品の形状や性能が「お客様の部品配置」や「残されたスペース」といった形状制約によって大きく左右される。つまり、設計者は常に“お客様の形状ありき”で設計を行っており、自社の設計はその制約の中で最適解を導く営みといえる。
CADseekを活用すれば、これまで自社が取り組んできた多様な「お客様の形状(=課題)」と「それに対応して設計した自社部品形状(=解決策)」を体系的に蓄積し、新たな案件において「現在の顧客形状は過去に解いてきたどの形状(=課題)に類似しているか」を検索・参照できる。 これにより、過去の類似課題で有効だった設計形状(=解決策)を再利用・応用することで、迅速かつ高精度に提案できる“知見の再利用型設計”が実現する。すなわち、顧客形状の理解 → 類似課題の特定 → 解決形状の再利用という新しい設計サイクルが形成される。
品質保証改革
理想モデルと現物の差分が「見える化」される
品質保証の領域では、検査・測定工程に膨大な工数を要する。従来はサンプリング検査と作業者の感覚による確認に依存していたが、CADseekと3D-A(Three-Dimensional Annotation)を組み合わせることで、形状そのものを比較・評価する品質マネジメントが可能になる。
たとえば、製造時の部品形状を3Dスキャンで取得し、設計時の理想モデル(3D-Aモデル)と照合する。CADseekは、形状特徴量をもとに差異を自動抽出し、「どの部位で」「どの方向に」「どれだけの偏差があるか」を数値とビジュアルで提示する。
さらに、金型や治具のメンテナンスにも大きな効果を発揮する。過去の修理履歴とスキャンデータをCADseekで検索することで、「どのような摩耗がどの期間で発生したか」「再研磨後の形状はどこまで回復したか」などを体系的に把握できる。その結果、経験依存だった補修判断がデータ駆動に変わり、金型寿命の延伸や試打工数の削減につながる。
品質保証部門にとってCADseekは、単なる解析支援ではなく、“形状を基準に品質を管理する新しいOS”とも言える存在になる。
類似形状検索による“精度リスク”の予測と回避
同じ部品を作る場合でも、形状によっては製造が難しく、寸法誤差が発生しやすいものがある。また、形状が単純でも材料特性や加工条件によって精度が出にくいケースも多い。
CADseekを活用し、過去の製品における「形状情報」と「実際に生じた寸法誤差」をペアデータとして蓄積・学習する。そして、”新たに設計する部品形状”と”過去の類似形状”を寸法誤差とともに照合し、その形状が過去にどの程度の寸法誤差を生じたかを参照・分析することで、設計段階で「提案予定形状全体の、特にどの部分に誤差が出やすいか」を事前に把握できる。
これにより、精度リスクの高い形状を早期に回避し、量産時にも安定した公差・CPKを確保できる設計が可能となる。すなわち、類似形状検索を通じて“作りにくさ”を予測・制御し、品質を設計段階から保証する仕組みを実現できる。
調達・コストマネジメント改革
形状で「コスト構造」を理解する
部品調達の現場では、図面や品番ではなく、形状の違いがコストの違いを生む。にもかかわらず、過去の見積情報や調達実績が形状と紐づけて管理されていないことが多い。
CADseekを導入すると、3Dモデルに基づいて部品を形状クラスタごとに分類し、「似た形の部品は過去いくらで、どのサプライヤーから、どんな条件で調達したか」を瞬時に検索できる。たとえば、形状がほぼ同じなのに見積価格が大きく異なる部品が見つかれば、コスト是正の余地を把握できる。また、同等品を他拠点で製造している場合は、代替生産の可否を即時に判断できる。
このような“形状ベースの調達管理”は、単なる購買効率化ではなく、コスト構造そのものを可視化する戦略的マネジメントである。経営層にとっては、設計・調達・製造の垣根を越えた“実コストの源泉”を把握するための新しいレンズになる。
類似形状検索による“納期・供給リスク”の予測と最適化
部品の形状によっては、加工や組み立てに時間がかかり、生産効率や供給の安定性に影響を及ぼす。形状が複雑で工程数が多い部品や、組み合わせ精度を要する部品は、往々にして製造リードタイムの延伸や供給遅延の要因となる。
CADseekの類似形状検索を活用し、過去の製品形状を「納期」「生産量」「歩留まり」などの調達実績と結びつけて蓄積・分析することで、新たに調達・製造しようとする部品形状が、過去のどの類似形状と同じリスク傾向を持つかを事前に把握できる。
これにより、納期遅延や供給変動のリスクが高い形状を早期に特定し、安定供給が見込める設計・発注方針を立てることが可能となる。すなわち、類似形状検索を通じて形状ごとの生産リスクを見極め、調達計画を事前に最適化する“形状起点の調達改革”を実現する。
マネジメント改革
形状を拠点間共通言語に、グローバルの設計資産を再利用
グローバル展開が進む中、海外拠点で同じような部品が重複設計・重複製造される問題は根強い。CADseekを導入すれば、各拠点の設計データを形状で統合し、「世界のどこで同じような形状の部品が作られているか」を瞬時に把握できる。
たとえば、欧州拠点で新機種を設計する際に、米国拠点で類似部品が既に存在することをCADseekが検知し、そのまま仕様を引き継ぐことで設計工数を削減。同時に、在庫・購買情報と連携することで、同一部品の共通化・転用が進む。
こうした形状ベースのデータ統合は、グローバルな部品標準化を自然に促す。部品点数の削減、在庫圧縮、設計リードタイム短縮といった経営成果が直結して得られる。また、拠点ごとに異なるCADシステムや命名ルールを使っていても、形状を共通言語とすることで統合が可能になる点も大きい。結果として、CADseekは単なる技術システムではなく、企業グループ全体の知識共有・運用の基盤として機能する。
形状を軸とした「知識の流通経済」へ
これらの変化の先に見えるのは、組織が形状を媒介に“知識を流通させる経済”へ進化する姿である。
設計情報、品質情報、調達情報が、個々の部門や人材に閉じず、形状という共通の座標系を介してつながり始める。CADseekは、そのネットワークの中で「情報を意味で結びつける翻訳装置」として働く。結果として、
· 設計の再利用率が高まり、リードタイムが短縮される
· 品質問題の原因究明が迅速化される
· コストの透明性が増し、経営判断が迅速化する
· グローバル拠点間の連携が形状データを通じてスムーズになる
このように、CADseekを中核に据えた「形状を軸とする情報流通構造」は、企業のプロセスそのものを“データで再設計する”改革であり、日本のものづくりが持つ精緻さと人間的な洞察力を、デジタル時代に再定義する挑戦でもある。
4. 人材・文化面のインパクト
技術の導入は、文化の変化を伴う。CADseekの根底にあるのは、「設計者はゼロから描く」という美学を否定するのではなく、それを「過去の知を活かして新たな最適解を導く」設計文化へ昇華させることである。
類似形状検索により、若手設計者が過去の優れた設計例を即座に参照し、熟練者の思考や判断をデータとして学ぶことができる。これは技能伝承のデジタル化とも言える。
さらに、中国をはじめとした構造化に強みを持つ文化・地域のグローバル設計拠点との協働においても、形状データが共通基盤となる。日本人の丁寧なものづくりに、大陸系の合理的設計手法が加わり組み合わせて実現できることで、設計・製造のあらゆる活動の展開が加速化される可能性がある。言語や国境を越えて「同じ形を見て同じ議論ができる」――これはグローバル競争力の源泉となる。
5. 3D-Aと拓く“形状を核とした情報活用”の時代へ
製造業のデジタル化は、今「3D-A(Three-Dimensional Annotation)」によって新たな段階へ進もうとしている。3D-Aとは、3Dモデルに寸法、公差、表面仕上げ、材料、工程情報などを情報の集合装置接埋め込み、図面レスで製造を定義するモデルベース定義(MBD)の中核を担う考え方である。
この3D-Aにより、図面、仕様書、加工指示、品質データなど、従来は分断されていた情報が統合される。設計・定義・製造・検証が一本のデジタルスレッドで連なり、 形状が企業全体の情報の中心軸となる。ここで鍵を握るのが、形状の検索・解析を担うCADseekだ。
· 過去の3Dモデルを参照して最適設計を導く(設計部門)
· 理想形状と実測形状を比較して品質を可視化する(品質部門)
· 形状に紐づく見積・材料・工程情報を検索して調達を最適化する(調達部門)
3D-Aが「情報の統合基盤」であるなら、CADseekは「知の探索エンジン」である。両者が連携することで、設計から調達、品質までを一貫して形状を軸に最適化する“知識循環型ものづくり”が実現する。これは単なる設計効率化ではなく、日本の製造業の知識構造そのものを刷新するための仕掛けである。
6. 未来アジェンダ ― CADseekが導く次の地平
先端情報技術との接続
類似形状検索を介し、現代のAIエージェントが高度な設計実務や人に見つけきれなかった改善機会を発見し実践する可能性を秘めている。それはAIが過去の形状データを学習し、設計判断を補強し、予兆検知を行える姿を意味する。「形状 × AI」により、熟練者の勘を体系化し、最適設計を自動提案する時代が来るであろう。
デジタルツイン・Omniverse技術との連動においても、理想形状と実際の製品をリアルタイムに比較し、異常を即座に検知する自律検査システムが試作・測定・検査の手戻りを劇的に削減できる。現在、高性能GPUの普及とともにバーチャルにものづくりを加速化するユースケースの検証が飛躍的に広まりつつある。
産業全体への拡張
CADseekの思想は、製造業にとどまらない。気象・建築・素材研究など、「形状に意味がある」あらゆる領域に応用可能である。
一例として、或る米国研究機関の酵素設計では、従来のアミノ酸配列や全体構造の類似性から機能を推定していたのに対し、実際の触媒活性は構造のごく一部(Reaction Center)の立体配置に依存していた。ここでCADSEEKは約40,000件の反応中心データを数理的に形状符号化し、3D形状の類似性に基づいて機能的に近い構造を高速に特定することを可能とした。これにより、機能的に意味のある構造探索が可能となり、目的とする酵素構造の設計・生成プロセスの生産性を大幅に向上させた。
形状は世界共通の言語であり、そこにこそ無限の可能性がある。CADseekは、“形を見て考える人間の知性”と、“データでつなぐ情報技術”を融合する装置として、ものづくりの未来を再構築する鍵を握っている。
結び
日本の製造業が再び世界の中心に立つためには、技能とデジタルを対立させるのではなく、形状を媒介として融合させる知恵が必要である。
CADseekは、その融合を現実のものとし、 「人の頭の中のものづくり」を「組織の知として循環させる」ための実践的なツールである。「CADseekの無限の可能性」に共感される読者においては、是非とも本論の知恵の融合に向けて弊社プロフェッショナルとの討議をお求めいただきたい。
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