鈴木 徳馬さん

データサイエンティスト

TOKUMA SUZUKI

技術ありきではなく、課題ありき。Physical AIを、現場で「本当に意味のあるAI」に。

東京大学大学院にてマクロ経済学を専攻。卒業後は金融機関にてクオンツとして運用モデルの開発・金融ニュースを活用した機械学習モデルの研究等に従事。JDSCに入社後、データサイエンティストとして、製造業における調達・設計領域におけるAIのプロトタイプ開発から実装まで担当。またJDSCのフィジカルAI領域をリードし、クライアント企業との共創を通じてフィジカルAIの社会実装に取り組む。

提供価値を見届けるためにJDSCへ。課題設定から成果創出まで顧客と共創する。  

―JDSCに入社するまでの経緯を教えてください。  

大学・大学院を通じて経済学を専攻し、研究のなかで数理的な手法を扱う機会が多くありました。そこで培ったスキルを実務で活かしたいという思いから、新卒では金融業界にクオンツとして入社しました。 

主な業務は投資信託などの金融商品の開発でしたが、並行して人工知能学会に論文を投稿するなど、研究的な活動にも取り組ませてもらえる環境で、技術的には非常に充実した日々を過ごしていたと思います。一方で、自分が開発したものが実際に誰にどう使われているのか、本当に価値を届けられているのか、その手応えが見えにくいという課題感も次第に大きくなっていきました。モデルやロジックを作ること自体には面白さを感じていましたが、その先にある「価値が届く瞬間」までを自分の手で見届けたいという気持ちが強くなり、転職を意識するようになりました。  

ちょうどその頃、大学院時代の友人の紹介で、JDSC創業者の加藤と会う機会がありました。JDSCが目指している姿や、データサイエンティストとしてどのような仕事ができるのかを話していくなかで、「ここなら、モデルを作って終わりではなく、最終的に価値を届けるところまで一気通貫で携われるのではないか」と強く感じました。それが入社の決め手になりました。  

―現在、JDSCではどのような業務を担当しているのでしょうか。  

主に製造業・物流業界のクライアントを対象に、機械学習モデルの開発プロジェクトに従事しています。 

担当しているプロジェクトに共通しているのは、「設計段階へのフロントローディング」を機械学習で支援する、というテーマです。本来であれば試作や検証を経てはじめて分かるような情報を、設計のタイミングで予測できるようにすることで、後工程での手戻りを最小化することを狙っています。 

たとえば、自動車部品メーカー様のプロジェクトでは、ある部品の形状を変更したときに、自動車のシートがどのような挙動を示すかをシミュレーションする機械学習モデルを構築しました。これにより、設計した部品を最終製品に組み込んだ際の品質を設計段階で見通せるようになり、スピーディーに設計を見直せるようになります。 

また、家電メーカー様のプロジェクトでは、「この設計だといくらで作れるのか」という見積もりを算出する機械学習モデルを構築しました。設計した部品の原価をAIで概算できるため、原価の観点で製品化が難しい設計かどうかを早い段階で判断しながら開発を進められるようになります。 

こうした後工程での試作や手戻りを最小化する手段の一つとして、機械学習を有効に活用していただけるように構想から実装までを一気通貫で対応している点が大きな特徴だと感じています。 

―業務を進めるうえで、どのようなことを意識されているのでしょうか。 

特に意識しているのは、プロジェクトの要件が固まった後にその仕様どおりに作るのではなく、「何を予測すると本当に意味のあるアウトプットになるのか」「それは現実的に予測可能なのか」という課題設定の段階から、積極的にクライアントと議論することです。 

というのも、これまでの経験上、AIプロジェクトが途中で頓挫してしまう原因の多くは、そもそも予測すべき対象の設定そのものにずれがあるケースだからです。こうした落とし穴を回避するためには、データサイエンティストがクライアントとしっかり議論を重ね、要求を具体化していくプロセスが不可欠だと考えています。 

例えば、「今後の製品原価を予測したい」というご要望をいただいたとします。素直なアプローチとしては、原価そのものを直接予測することが考えられますが、ここには大きな落とし穴があります。製品に使われる原材料の価格は社会情勢によって大きく変動しうるため、過去データから学習するというAIの性質上、原材料価格が大きく動く局面では、原価を直接予測するモデルはうまく機能しないことが予見されるからです。そこで、「原価を直接予測するのではなく、原材料価格と、それ以外の比較的安定した関係性を持つ部分とに分けて捉えるべきではないか」といった提案をクライアントにお伝えしながら、プロジェクトを進めるようにしています。 

 “何を予測すべきか”から考える姿勢は、どのような経験を通して培われたのでしょうか? 

大学・大学院時代の研究が、大きなきっかけになっていると思います。 

経済学の研究は、ある現象にインパクトを与える要素を抽出し、それを数式でモデリングしたうえで、対応するデータと往復しながら検証していくというものが基本的な作法です。指導教官のもとでこの考え方を徹底的に叩き込まれた経験は、今の仕事に最も活きているものの一つだと感じています。 

経済学はそもそも、何かが起きたときにその背後でどのようなメカニズムが働いているのかを、数式を使って捉えていく学問です。例えば、「人も企業も、与えられた条件のもとで自らの利益を最大化するように行動する」といった仮定を出発点に、社会の動きを数理的に分析していきます。つまり、データを見る前に「どのような構造を仮定するのか」「何が本質的な変数なのか」をまず考える、という思考の順番が自然と身についていくんです。この感覚が、今の「何を予測すれば意味があるのか」から入るスタイルに、そのまま繋がっていると感じています。 

現在担当しているのは製造業向けのプロジェクトが多いのですが、製造業では物理学が現象の基本にあるケースがほとんどです。現象を支配するメカニズムを数式に落とし込み、そこにデータを当てはめてモデルを構築する、という意味では、土台となる発想は物理学でも経済学でも変わりません。学問領域こそ違いますが、これまでの経歴がそのまま活かせていると感じています。 

プロフェッショナルとしての成果を最大化する、柔軟なワークスタイル。 

―仕事と育児の両立という面では、いかがでしょうか。 

JDSCには、プロフェッショナルとして成果を出すことを前提に、個人のライフステージに合わせた柔軟な働き方を尊重する文化があります。私自身、2カ月半の育児休暇を取得しました。担当プロジェクトの引き継ぎも、クライアントの背景を深く理解している信頼できるチームメンバーのおかげで非常にスムーズに進めることができました。 

現在は復職していますが、今後は妻の職場復帰に合わせて、よりフレキシブルなスタイルに移行していく予定です。朝は子供を送り届けてから業務を開始し、夕方は育児に専念、寝かしつけの後に再び集中して作業を行う。こうした裁量のある働き方は、心理的なプレッシャーを軽減し、結果として仕事のクオリティを高く保つことに繋がっていると感じます。 

こうした個人の生活と地続きにある安心感があるからこそ、Physical AIのような未知の領域、難易度の高い社会課題に対しても、腰を据えて全力で挑戦できているのだと思います。

JDSCでの新しい挑戦。Physical AIの社会実装に挑む。 

―今、データサイエンティストとして特に注力しているテーマは何でしょうか。 

最も注力しているのは「Physical AI(フィジカルAI)」の社会実装です。 

ここ数年、生成AIやAIエージェントの活用は一気に広がってきましたが、その大半はソフトウェアやデジタルの世界に閉じた話で、現実世界の作業は依然として人手に頼っている領域が広く残されています。製造チームとしては、磨いてきたデータサイエンスの技術を、もう一段リアルな現場まで持ち出していきたいという思いを以前から持っていました。 

そうしたなかで登場したのが、Physical Intelligence社のπ0(pi-zero、ロボット向けの汎用基盤モデル)をはじめとするVLA(Vision-Language-Action)モデルです。視覚・言語・行動を一気通貫で扱うことで、「見ながら考え、考えながら動く」ロボット制御が現実味を帯びてきました。これまで自動化が難しかった柔らかいものや不定形物のハンドリングにも手が届き始めており、ロボティクスの世界が一気に動き始めた、という感触を持っています。この潮流を、産業現場での価値に繋げていくことが、いま向き合っているテーマです。 

―具体的には、どのような取り組みを進めているのでしょうか。 

ロボット基盤モデルの台頭を背景に、まずはロボット制御の知見を段階的に積み上げていくところからスタートしました。入り口にしたのは3Dプリント可能な小型ロボットアームです。ハードウェアの組み立てから着手し、遠隔操作環境の整備、学習用データセットの設計と収集、そしてVLAモデルのファインチューニングまでを、一通り自前で回せる体制をつくるところから始めました。

ところが、自分たちで学習させたモデルを実機で動かそうとすると、学習データと実環境のわずかな違いだけでも、モデルは思うように動いてくれない。そこからはデータの集め方そのものを設計しなおし、学習と評価のサイクルを地道に回すことで、自前のモデルを安定して動かせるレベルまで引き上げていきました。 

こうして地道な検証が組織としての本格的な取り組みへとつながりました。具体的には、大手クライアントとの、Physical AIの社会実装を見据えたロボット基盤モデルの共同開発です。 

並行して大切にしているのが、現場との接続です。ロボットSIerやロボット商社、産業用ロボットを運用されているクライアント、物流現場の担当者の方々と直接お会いし、自分たちが開発しているモデルが本当に現場に入り込めるのか、入れるとすれば何が必要なのかを継続的に議論しています。研究室で精度を出すこと自体が目的ではなく、最終的に現場で価値を出すことが目的だからです。 

会社としても、2026年2月に「Physical AIビジネス開発室」を立ち上げ、専門人材の採用も加速しています。私自身も、Physical AI領域の技術リードとして、技術検証と現場議論で見えてきた課題をより大きなスケールで解いていくフェーズに入ってきました。そうした積み重ねを評価いただく形で、「フィジカル AI 開発支援プログラム by AWS ジャパン」にも採択いただき、VLAモデルをはじめとするロボット基盤モデルの開発をさらに加速させています。 

―今後、JDSCとしてPhysical AIの領域でどのようなことを進めていきたいと考えていますか。 

JDSCとして進めていきたいのは、デジタル空間で進化してきたAIを実際の製造現場まで届けきり、その先にある「AI Defined Manufacturing」と我々が呼んでいる製造のパラダイム転換まで、クライアントと一緒に作りにいくことです。 

AI Defined Manufacturingとは、AIが製造の設計・計画から運用までを担い、PDCAを自律的に回していく新しい製造の姿です。生産計画に応じてロボット自身が工程順序を組み立て、ボトルネックが生じれば他工程の空きロボットが応援に回り、稼働データはそのまま学習に還元されてフィジカルAI自体が日々レベルアップしていく――そんな自己進化する現場です。人の役割も、現場作業から、AIの訓練・工程の監督・重要な判断や戦略立案へとシフトしていきます。 

これを実現していくにあたって、私たちは「どこに入れるべきか」と「実際にそれができるのか」の2軸で取り組みを進めています。 

1つ目の「どこに入れるべきか」は、適用箇所の見極めです。従来手法が得意な領域はそのまま任せ、フィジカルAIでなければ解けない部分に集中して入れていく。技術ドリブンで使えそうな所に入れるのではなく、現場の課題から逆算して入れるべき所に入れるこの設計こそが、現場で本当に意味のある成果を出すために欠かせません。 

2つ目の「できるのか」は、実現性の問題です。技術的に重要だと考えているのは、ロボット基盤モデルが扱うモダリティ(情報の種類)を広げることです。現在のモデルの多くはカメラ映像中心ですが、現場の産業用ロボットは力覚・触覚・位置などのセンサー情報を組み合わせてタスクをこなしてきました。押し込みの強さや微妙な位置決めといった「現場で本当に必要な繊細な情報」を扱うには、マルチモーダル化が不可欠です。加えて、危険な動きをしないための「行動のガードレール」設計や、判断が一瞬遅れるだけで現場が破綻するシビアな世界での精度と速度のバランスも、避けて通れない課題です。 

これらの検証には、シミュレーションで前進できる領域もあれば、シミュレーションだけでは解決できない領域も多く残ります。学習環境と実環境のわずかな違いでモデルが動かなくなる繊細さ、そして作業者の動きやラインの状態、季節要因や突発的な状況変化といった現場特有の複雑性は、実際にクライアントの現場と向き合うなかでしか織り込めません。 

そうした現場の複雑性に向き合うには、共同開発をしているクライアントをはじめ、現場のステークホルダーの皆さまと議論を重ねながら、壁を一つひとつ越えていく以外に道はないと考えています。こうした地道な積み重ねの先にこそAI Defined Manufacturingの実現があり、Physical AIで日本の製造業の競争力向上に貢献していくことができると考えています。JDSCで、このビジョンを実現できるよう努力していきたいと思います。 

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