ものづくり企業の戦略的変革!暗黙知のAI化で提案型企業へ

ものづくり企業の戦略的変革!暗黙知のAI化で提案型企業へ

2023年10月24日に開催されたオンラインイベント『UPGRADE JAPAN!! JDSC DAY 2023〜AI・データサイエンスの力で業界DXはここまで進化する〜』。
Session 4では、株式会社ソミックマネージメントホールディングス 取締役副社長/株式会社ソミックトランスフォーメーション 代表取締役 石川様にご登壇いただきました。
107年の歴史を持つ、自動車部品世界トップシェアを誇るソミックグループが2016年から着手し始めた、これからの100年を見据えた大きな変革。その全貌と、大きな期待を寄せるJDSCとの取り組みについて、JDSCの佐藤、和田、寺村と意見を交わし合いました。

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自動車部品で世界トップシェアを誇るソミックグループ

佐藤 飛鳥(以下 佐藤):JDSC執行役員の佐藤飛鳥です。私は日本の根幹産業である製造業、ものづくり企業のDXを支援する部署の責任者をしています。

本日は我々が支援させていただいているソミックマネージメントホールディングス様より、 取締役副社長の石川彰吾様にお越しいただいております。

石川 彰吾(以下 石川):よろしくお願いします。

佐藤:ソミックグループの主要企業である株式会社ソミック石川は、ものづくり企業が多く集まる浜松市に設立されて107年。 自動車部品メーカーとして、知る人ぞ知る優良企業でございます。

弊社のメンバーが、いつも石川様のことを「彰吾さん」と呼ばせていただいておりますので、本日もいつも通り、彰吾さんとお呼びさせていただきます。

それでは彰吾さん、ソミックグループの企業概要についてご説明をお願いしてもよろしいでしょうか。

石川:承知いたしました。

まずソミック(SOMIC)という社名ですが、創造・未来・挑戦の頭の文字を取り、1つの言葉にした造語です。

創業75周目の節目に、社名を『石川鉄鋼』から変えるという時に社員から公募しまして、 こちらの社名に変わったという歴史がございます。

それではソミックグループの概要についてご紹介させていただきます。

先ほどお話した通り、マネージメントホールディングスを上に置いて、その下に各事業会社という形で事業ごとに会社を配置しているという形になっております。

この後それぞれの会社の詳細をもう少し詳しく説明させてもらいますが、このソミックマネージメントホールディングスというのは、まさに製造業を大きく変革していくために設立した会社で、事業の統括、シェアードサービス、先進技術の開発等を行っております。

従業員はグループ全体で現在約2,000名で、浜松、磐田を中心に、日本を含めて
7カ国で7,600人という従業員の方たちが一緒に働いているという会社になります。

大きな会社のソミック石川になりますが、元々1916年に創業された会社でして、現在は自動車のボールジョイントという足回りの部品を担当させていただいております。

一言でボールジョイントと言っても車の色々な部分に使われておりまして、ボールジョイントという機能がそれぞれの部位に使われていくと、また部品名が変わります。

今、国内ではシェアナンバーワンで、世界トップスリーの会社でございます。

もうひとつ、事業会社でアスキーという会社がございます。こちらは布を織る織機の部品、テンプルという部品を作っている会社です。 実は国内で唯一テンプルを作っている会社であり、当然ながら世界のトップシェアを占めております。

最後に、先ほど申し上げた新規事業を作る会社ということで、2021年に設立したソミックトランスフォーメーションがございます。

今この会社では『SUPPOT(サポット)』という自立走行ロボットのビジネスを展開させていただいております。

このSUPPOTの特徴は、どこでも誰でも使えるということと、自立走行ロボットですので悪路走破性があること、積算量が100キロまであることです。遠隔操作、自動追準、自動運転ですので、簡単に安全に操作ができます。

この新規事業を作って我々がやりたいことは、「日本の建設現場の高齢化・人手不足の課題に対して、解決するチャレンジをしていく」ということです。その思いからこのSUPPOTを展開し始めたところです。

SUPPOTを通じて働き方を変革し、より多くの人が働き続けられるような世界を実現していきたいという思いのもと、現在レンタルサービスをスタートしております。

また、建設現場だけに留まらず、この後も領域を広げていきながら拡大させていきたいなと考えているところでございます。

元々は機織り機、ボルト・ナットからスタートをした会社になりますが、外部環境の大きな変化の中で我々自身がどう生き延びていくのか、という議論の中で、自動車部品への転換や様々な組織再編を経て今日に至っております。

そして、まさに今我々が直面している次のチャレンジというのは、次の100年を我々はどう生きていくのかというものになっております。


ソミックグループが考える「次の100年の生き方」

佐藤:彰吾さん、ありがとうございます。ソミックグループとして次の100年ということで、色々なことを計画されていると認識しています。どのようなことを計画されているのか、ご説明をいただいてもよろしいでしょうか。

石川:それでは、今我々がどのような変革に取り組んでいるのかというところについて、お話をさせていただきます。

まず、おそらくどこの企業様も皆さん同じだと思いますが、今外部環境が大きく変化しております。 我々の身近なところでは、自然災害の脅威、コロナのあり方、健康のあり方の変化がございます。経済政治についても国内、国外ともに非常に不安定な状況になっています。

我々のマクロ環境を見ると、本当に予想できない時代に突入しているなという風に感じております。そういった中で、もう少し我々の事業にそれを引き寄せて考えてみると、やはり社会的な責任の部分が非常に大きくなってきます。カーボンニュートラルがその代表的な話になりますが、事業におけるリスクの多様化というところは非常に大きくなってきたかなと思っています。

例えば自動車部品の話でいくと、CASEという大きな変革の中で、事業がそもそもなくなってしまうというような会社もございます。

(※「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared & Services(シェアリング/サービス)」「Electric(電動化)」の頭文字からなる造語)

そういったことを踏まえて、我々はビジネスモデルの変化、事業領域の変化、企業構造の変化に取り組んでいかなければならない。

まさに「今求められる新しい経営はどういった経営であるべきなのか」というのが、今我々が置かれているところでございます。

弊社はおかげさまで107年製造業として生きてきましたが、私たちソミックのグループの中で共通した認識として「あきらかに今のままの社会は、持続可能な社会ではない」というものがございます。 我々はこれを見逃せない課題という風に捉えていて、これを1つのキーワードにして、会社を変えようというところに取り組んでおります。


「2030年までに世界初を10個」社運をかけた大胆な目標

石川:2016年から「そもそも我々はどうあるべきなのか」という議論を経営陣の中で繰り広げ、 2018年に大きく会社を変えていくということでマネージメントホールディングスを設立し、着々と事業の構造を変えてきました。

最近では直近2022年に、パーパス・アイデンティティーを新たに発表させていただきました。

我々の目指している北極星・価値観でございます。

最上段にソミックソサエティというものを掲げております。ソミックの社名の通り「創造、未来、挑戦できる社会を作っていく」というものですが、ソミックの人間がということではなく、全世界の方たちがまさに創造、未来、挑戦できる社会を作っていきたいという我々の思いがございます。

下段にパーパス・アイデンティティーがございます。アイデンティティとして「製造業を変革し、創造する」と掲げておりますが、まさに製造業のバージョンアップをさせながら、新しい製造業にしていくことが、我々ができることではないかというところで、今取り組んでおります。

もう少し分かりやすいメッセージとして、「2030年までに世界初を10個作っていく」という社運をかけた大胆な目標を作成しました。

モビリティ関連事業と、それ以外の事業、どちらにおいても既存事業には新たな付加価値を加える。同時に全く新しいものも作り上げていく。この両方を同様に取り組みたいと考えております。

これまであった「自動車部品メーカーというのは製品のみを作る会社だ」というようなタグを自ら外しながら、新しいソミックを作っていこうと考えています。
おかげさまで最近では、各会社で様々な社外の方たちとコラボレーションできております。


大きな期待を背負う、ソミックアドバンスとJDSCのコラボレーション

佐藤:ありがとうございます。JDSCとは、ソミックアドバンスという会社で一緒にお取組みさせていただいております。

石川:そうですね。JDSCさんと一緒に取り組んだのは、ソミックアドバンスというシートダンパーの会社です。

なぜ今回このソミックアドバンスを私が選択して、JDSCさんと一緒に取り組んだのかを少しお話させてもらえればと思います。

ソミックアドバンスで取り扱うシートダンパーという製品は、シートの動きを滑らかにする部品です。多くの自動車メーカー様のシートに採用いただいており、おかげ様で着々と拡大し大きく成長してきております。

そんな中、なぜJDSCさんと一緒にソミックアドバンスの変革に取り組んだかというところですが、ここで見ていただきたいのが弊社のセグメント別の売上高になります。

おかげさまで1,030億まで成長してきているのですが、売上の大半が、やはりまだボールジョイント(BJ)という特定の部品になっております。

そして、ボールジョイントの次に大きいのが、売上32億、全体の3.1%を占めるソミックアドバンスの製品です。ソミックアドバンスのこの32億がどこまで拡大できるかというのが、ソミックグループの大きな成長に関わってくると思っております。

そのためソミックアドバンスには大きく成長してもらいたいという思いから、今回JDSCさんと一緒に取り組んだという背景です。


自動車業界に起きている“ルールチェンジ”とは

佐藤:ありがとうございます。ソミックアドバンスで外部と協業することは初めてのことだったかと認識しております。

石川:そうですね。ソミックアドバンスのメンバーは非常に真面目で、自分たちで色々と問題を解決していこうと取り組んできたのですが、やはり新しいことを作っていこうとすると、なかなか自前主義では難しい。

私はグループ全体を見ているので、やはり外部とコラボレーションが始まった会社の方が様々なことが進んでいるなと感じます。そういった外部とのコラボレーションが唯一なかったのがソミックアドバンスという会社になります。

そのため副社長の立場からも、ソミックアドバンスの皆さんにチャレンジできる環境を作りたいと考えました。そこで今回JDSCさんと一緒に取り組むということを決断したというところでございます。

先ほど環境が色々変わってきたという話をしましたが、もう少し自動車産業に引き寄せてみたいと思います。

ひとつ大きなこととしては、ルールチェンジが起こっていて、何が正解か分からない時代に入っています。これは逆に言うとチャンスだと思うんです。

今までは自動車メーカーさんがある種伝統的なやり方で、能動的に産業そのものをコントロールしてくれていた。 そこに準じてサプライヤーがTier1からずっと連なっているという感じでした。

ところが、今は大きく変わっています。自動車メーカーさんも、新興の自動車メーカーのEV系の企業が出てきたことから、今までのような伝統的なやり方ではなく、かなり革新的なやり方に変わろうとしている。

そうすればサプライヤーも当然、自動車メーカーさんの動きに倣って変わっていかないといけない。そこで全体が革新的な変化が求められているというところかなと思っております。

このオレンジ色で表したものがまさにソミックアドバンスだと私は考えており、動き方をひとつ変えるだけで大きく成長できるのではないかと思っています。

そこがまさにチャレンジで、JDSCさんと一緒に取り組みたいと思っている部分です。

自動車メーカー様やTier1の大きな会社以上に、 ソミックアドバンスが能動的かつ革新的な会社に変わっていく。そうすることでより多くの提案ができ、そこに付加価値を生み出すことができる。

ソミックアドバンス自体ももちろん、 多くの製造業の企業がこうした変化ができると、社会がより持続可能になるのではないかと考えています。まさにこれに取り組みたいというのが大きな思いでございます。

佐藤:彰吾さん、ありがとうございます。またJDSCに対する高い期待もいただきましてありがとうございます。 その大きな変革において一部のテーマを、まさに我々が支援をさせていただいております。

それでは和田さん、支援内容についてのご説明をお願いいたします。


機械学習と力学、二つの異なるアプローチで現象を解明

和田 準平(以下 和田):はい。高精度ダンパーシミュレータ開発という取り組みをご紹介させていただきます。

彰吾さんからご説明がありました通り、ソミックアドバンスさんのシートダンパーという商品を対象にプロジェクトを進めております。

まず、ダンパーというものはシンプルな部品に見えてかなり複雑な構造を持つ自動車部品です。 内部の現象のシミュレーションが非常に難しい、動きを予測することが難しいという現状がございます。

ダンパーの開発フローを載せておりますけれども、 構想設計の後に試作設計と試作検証を繰り返すという工程がございます。実物を作って動きを確かめていくというプロセスになっており、これにコストと時間がかかっている現状がございます。

そこでプロジェクトを通して、この動きの予測精度を上げ、試作検証の繰り返し回数を削減することで、コストダウンとリードタイムの短縮を図ることを目指すというのがプロジェクトの目的になっております。

アプローチといたしましては、大きく2つのアプローチを取っております。

まず1つ目が「機械学習アプローチ」というもの、 もう1つが「力学的アプローチ」というものです。

機械学習アプローチの方は、予測精度の高いモデルを作り、いかにその動きを正確に予測できるかを目指すアプローチになっております。

一方の力学的アプローチは、力学的視点から内部のメカニズムをしっかりと理解することを目指しております。

この2つのアプローチを同時並行で進めることによって、クリックウィンを狙いつつも、現象の解明というところを目指しております。

それぞれのアプローチについてもう少し説明させていただきます。

まず機械学習アプローチの方ですね。こちらにつきましては、組み立て品の動作試験データを収集して、それを元にシートの動きを予測する機械学習モデルを構築しております。

ざっくりの説明になりますけれども、まずシートを起こした状態では角度は90度だったり105度だったりする。ここからレバーを引いてシートを倒していくと最後は0度で倒れきる。この間でダンパーが効いて、ゆっくり倒れるという動きになります。この間の動きというのを、試験を通してデータを収集するということをやっております。

その動きが右側の角速度線になります。横軸を角度、縦軸を角速度にして、このような動きがグラフとして表されます。

今回のアプローチとしては、この動きを特徴付ける3点(資料内a、b、c)それぞれの横軸角度、縦軸角速度を予測するモデルを構築することにしております。

機械学習アプローチに関しては、AIモデル作成後、最終的にモデルを組み込んだ Webアプリを開発し、営業ツールとして使うことによって、営業力強化も狙っております。

お客様と仕様のすり合わせをする際、このようなアプリケーションの形ですぐに仕様を変えて、例えばシートの重さやダンパーの寸法を変えると動きがどのように変化するのかをその場ですぐに見ることができるようになります。

それによってすり合わせ工程を効率化し、営業力強化に繋げていくということを狙っております。

もうひとつの力学的アプローチですけれども、こちらは流体力学を中心としたアプローチによって、ダンパーラインに生じる現象の解明に挑んでおります。中身の詳細についてはこの場では説明を控えさせていただきますが、ソミックアドバンスのエンジニアの方たちと一緒にディスカッションを重ね、内部構造でどのような現象が起きているのかいうところを一つずつ解明していって、内部の検証を最終的には正式化するところまで目指しております。

現状としては、仮説を立てているところまでできております。この後実際にデータを取りながら、最終的にはしっかりと動きを説明できるような定式化を目指しております。ざっくりではありますけれども、 取り組みの概要としては以上になります。

佐藤:和田さん、ありがとうございます。

機械学習的なアプローチ、つまりデータサイエンスに加えて、力学的アプローチという変わったアプローチも加えて、より精度の高いシミュレーションに取り組んでいます。

ベテランの方でも分からなかった、または感覚的にならざるを得ないものを可視化することによって、 コストダウンはもちろん、設計リードタイムを短縮する、提案自体を分かりやすくすることを目指しています。

こういった提案力の強化というのは、まさに彰吾さんがおっしゃっていたソミックグループとして変わっていくための一歩なのかなと私としては認識をしています。

彰吾さんからその辺りについて、コメントをいただいてもよろしいでしょうか。


前のめりな姿勢で“Tier1.5“を目指す

石川:いくつかのポイントがあると思っています。

先ほど佐藤さんがおっしゃったように、リードタイムを短くし、様々な提案ができるようになることは、お客様に「ソミックアドバンスじゃなきゃダメだよね」という風に言ってもらえることに繋がります。これが結局、事業の広がりにどんどん繋がっていくと思っています。

まず私たちはTier2ではなく、Tier1.5になろうと考えております。

いわゆるTier2というのは、どちらかというと、Tier1の方たちが言ったものを形にするというビジネスです。それを今後は、より我々が前のめりになりながら、ある種Tier1の視点で取り組む。

Tier1の方たちではなくTier2の我々がやることが一つの付加価値になるのではないか。そういう思いからTier1.5を目指しています。

これもここで終わりではなく、さらにその上に、Tier1やTier 0.5みたいな話になっていくのかなという風に思っております。そういうことができるようになっていくというのが、非常に大きなメリットだと考えています。

ただこれは事業の側面から言っている話であって、結局これを動かしてくれているのは、やはり弊社の従業員の方たちです。

従業員の方たちがこういったチャレンジを通じ「今まで自分たちがやっていたことはこういうことなんだ」という新たな気づきを得て、自分のしている仕事に誇りが持つ。そして「もっとこういうチャレンジができると、こういう価値が生まれるんじゃないか。」 という発想が生まれる。そんなことを考えております。

JDSCさんと一緒に取り組ませてもらった理由の一つでもありますが、今までのような自前主義でやっていくと、できること・できないことの見極めというのは、どうしても自分たちの知見やノウハウに限定されてしまいます。

特に和田さんは本当に弊社のメンバーに寄り添ってくださって、我々が言語化できない、可視化できないところを非常に上手に汲み取ってくださいました。

おかげさまで、社内でも「もう少し新しいことでこういったチャレンジをしたい」とか、「実はこんな風にするとお客様に喜んでもらえるんだ」のようなディスカッションを聞く機会が増えております。

まさに「事業拡大を目指す上で、従業員の皆さんが成長する機会をどれだけ与えられるのか」を追求するのが経営者の役割かなと思っております。


機械学習で取り戻す、技術者本来の喜びとクリエイティビティ

石川:寺村さん、一緒に伴走してくださった視点から見て何かございますか。

寺村 英雄(以下 寺村):時代背景が機械学習を必要としてきているということを非常に感じております。

戦後、耐久消費財も含めて世の中に初めてのモノが出てきた時は、ニーズが多様化していなかったはずです。そもそも欠けているものを満たしていくという話ですので、作っていくものの多様性もそれほどなかったと思うんです。

型番もそれほどに多くないですし、しっかりと需要を掴んである程度決まったものを大量に作っていくということだったと思うんですよ。

技術者にとっては、大量の生活者の方に価値が提供されてなかったものができるようになるので、ものすごく嬉しいことです。

 一方で、時代が進んでいくに従って、耐久消費財も家庭の中に行き渡り、その先はもう差別化の時代になってくるわけですよね。

先ほどマクロ環境の変化という話もありましたけれども、多様化しているニーズに対して同じぐらいの戦力でモノを作っていかなければならないとなると、これはもうスタッフが機能分割するしかなくなります。

そうやって機能分化していくと、全ての型式について「最終的にメーカーやTier1を通じて、どう生活者の手に届いて、どう喜ばれているのか」を追いかけられなくなっていきます。かつ型数が多いですから、そもそもの仕事量が増えている状況です。

つまり、現代は「技術者の本当の創造性が生活者に届いた結果としての喜び」みたいなものが手に入れにくいと思います。

そこを機械が代替していき、より技術者がクリエイティビティを発揮することに時間を費やすことができるのが、AIの世界なのではないかと思うんですよね。

よく機械なのか人間なのかという二元論がありますが、それはペアで走っていくものだと私は考えています。

機械学習をするから人間が不要になるのではなく、機械学習をして精度を上げることによって、技術者はクリエイティビティを発揮することに時間を費やすことができる。

 要するに、技術者としての人間性を取り戻すということに繋がっていくのではないかということを、ソミックアドバンス様のプロジェクトをご一緒しながら考えておりました。

石川:そういう意味では、今回御社にご縁をいただいて、御社の目指している世界観と我々が目指したい世界観が合致したというのは1つ大きかったと思います。

やはり日本をアップグレードしていくところかなと思っていて、それが今、まさに寺村さんがおっしゃったことですよね。それが2社の中で1つの事例になるといいなと、いま色々とお話を聞いていて思いました。

佐藤:我々としても、製造業のアップグレードというのは本当に難しいなと思っています。 特に今回の場合、製造業の中でもまさにその根幹である商品に取り組むという挑戦でした。

メカニズムをきちんと理解した上で機械学習を使いながら、技術者のクリエイティビティを最大発揮させる。まさにこれだと思うんですよね。 これができるようなチームを組めたことは本当に素晴らしいことだなと思っております。

元々機械設計の専門家である和田さんから見ても、このダンパーという製品は流石に初めてだったかと思います。 この構造や特性を理解するのは大変だったのではないでしょうか。

和田:おっしゃる通り、私自身ダンパーという製品を扱うことは初めての経験でして、最初は中身の構造というのもなかなか理解することが難しかったです。

定番にはなりますが、何度も何度も足を運ばせていただきエンジニアの方とディスカッションを重ねさせていただいたことが一番大きいと思っております。

ソミックアドバンスのエンジニアの皆さんは非常に大きな熱意をお持ちで、ダンパーに対する熱い愛をお持ちです。お話をお伺いすると、 本当に丁寧に教えてくださいました。そのお陰で我々もキャッチアップと言いますか、ダンパーについて理解を深めることができました。

また、データを見ながらディスカッションを進めたところも良かったと思っております。データを見て「こういう動きになるんじゃないか」のような仮説を立てて、それをソミックアドバンスの皆さんにぶつけてみて、またディスカッションを繰り返して理解を深めて…といった形ができました。

佐藤:ソミックグループのエンジニアの方たちに、良くも悪くも我々をひとつの異文化として認めていただいて、 そこで切磋琢磨できるような環境を作れた。そういうカルチャーをお持ちであることが素晴らしいなという風に思います。

石川:そう思っていただいていることが、本当にありがたいなと思っておりますし、自社のメンバーが変わろうとして動いてくれているということを本当に嬉しく思います。


日本の中小企業と一緒に世の中を大きく変革したい

石川:先ほど、弊社の変革のお話をさせていただきましたが、それが着々と皆様の手によって形になっているということを経営者の視点から感じられました。

今までも変革を通して意識が変わってきてはいましたが、やはり昨今のマクロ環境というのはとてつもない変化です。これは今まで継続してきたレベル感での変化で太刀打ちするのはハードルが高い。

そのため経営陣からは「恐れず挑戦をしていこう」と進めてきているのが、なんとなく浸透してきているのかなと感じます。

ただ、ある種トップダウン的にそのような環境や雰囲気は作れると思うんですけれども、やはり誰しもが分からないことにチャレンジする時は不安になると思うんです。この不安に対して、どれだけ心理的安全性を高めてあげてチャレンジしてもらうかというのが重要です。

よく経営者の皆さんが、「失敗してみろ」とか、「仲良く喧嘩しろ」みたいなことを簡単に言いますが、実務経験も長い身からすると、それは中々難しいだろうと思うんですよね。

そういった意味で、今回のようなコラボレーションを通じて、自分たちが分からないことをサポートしてくれる人が横にいるからチャレンジしやすくなるのだと思います。

佐藤:自画自賛ではないですけれども、JDSCのデータサイエンスの能力とビジネス変革能力、 ものづくりDXチームに関してはそこにさらに皆様の製品についての理解があって、現場の皆様と同じ言語で話せる部分があるというのは、非常に大きな強みなのかなと考えています。

今後についてはJDSCとしましても、この改革をやりきるということはもちろんですし、彰吾さんが掲げていらっしゃる変革を構成する他の数多くのテーマについても貢献していきたいなと思っております。

その先をさらに見据えると、御社だけでなく日本の製造業を一緒に変えていきたい、そのぐらいの気持ちも我々としては持っています。

彰吾さんとしては今後の展望をどのように考えていらっしゃるか、最後にコメントをいただいてもよろしいでしょうか。

石川:ありがとうございます。先ほど紹介させていただいたように、我々の目指している世界というのは、製造業を変革し、創造するというものです。

もしこれを規模の大きな企業様が成し遂げたとしても、なんとなく「経営資源が非常に潤沢だからだろう」というような話になってしまって、多くの企業の勇気になるかと言われると、そのインパクトは少ないのではないかなと私は考えています。

それよりも、我々のような中堅規模の会社が新しいチャレンジをして、その成功が何かのきっかけになればいいなという風に思っています。

「ソミックアドバンスという会社が何かこういうことをやってみて変わったんだ、それを見て自分たちも挑戦したくなったんだ」という会社が出てきてくるといいなと期待しています。

それが製造業を変革する、まさに経営資源そのものを変えていくということなんだと思っています。

日本では中小企業の数が、企業数の約99パーセントを占めていると言われておりますので、こういった方たちと一緒に大きく変わっていきたい。

いわゆる自動車OEMの方たちが本当にやらなければいけない部分を、いい意味で我々のような新しいチャレンジができるサプライヤーに任せていただくことによって、逆に自動車OEMの方たちの経営資源の張り方が変わってくる。そうすると、産業構造そのものが変わっていき、改めて世界とコラボレーションができることになると思うんですよね。

そういった社会ができた時「ソミックソサエティというのはこういうことだったんですね」ということが世界中の方たちと語れる。それが私のやりたいことですので、JDSCさんと引き続き一緒に挑戦していきたいなと思っています。

佐藤:ありがとうございます。JDSCとしましても『UPGRADE JAPAN』というキーワードを掲げておりますので、ぜひ一緒にものづくり企業を変えていければと思います。


■石川 彰吾 様
オハイオ州立大学卒業後、スズキ株式会社を経て株式会社ソミック石川へ入社。2018年株式会社ソミックマネージメントホールディングス取締役。2021年にソミックトランスフォーメーションを設立し、代表取締役就任。

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