株式会社オープンハウスグループ「データサイエンスを駆使した営業行動の解明〜不動産領域のアップグレード〜」

株式会社オープンハウスグループ「データサイエンスを駆使した営業行動の解明〜不動産領域のアップグレード〜」

株式会社オープンハウスグループ情報システム部の多田様と、弊社のVice President of Data Scienceの中橋で、「データサイエンスを駆使した営業行動の解明〜不動産領域のアップグレード〜」と題してディスカッションしてまいります。特に営業領域のデータ活用でお困りの方にぜひお読みいただきたい内容です。

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「対応力」と「フットワーク」を持ったITで急速な成長を後押し

益本:まず多田さんより、オープンハウスグループ様のご紹介とIT部門での取り組みについて教えていただけますでしょうか。

多田:弊社は、皆様のイメージにあるような戸建住宅だけではなくマンションや投資用物件の販売、仲介事業、米国不動産の取り扱いなども手がけ、「価値ある不動産を届ける」というテーマで急速に事業を拡大してきました。

事業拡大には大きなファクターが2つあります。まず1つは徹底した現場主義です。とにかく現場に大きな裁量を持たせて成果で評価し引き上げていくという文化がございます。もう1つはスピードです。経験とノウハウは大手に及びませんが、その分行動量とスピードで補ってまいりました。

そこでITに求められてきた役割は、営業職員と同じスピード感、考え方で反応するということです。安全性や効率性ももちろん重要ですが、どんなことでも「まずはやってみよう」という対応力や必要な時すぐにシステムを導入するフットワークを重視しています。

情報システム部門としては、一気通貫と内製をテーマに掲げております。

一般的なIT部門では課題整理、企画、設計、開発、保守運用、それらを取りまとめるプロジェクトマネージャーと、専門性を持つスタッフが分業するところですが、分業体制や外注では各人の専門性が高いがゆえに営業の現場と大きな溝が生まれてしまいます。また高い専門性を持った方が複数いると、共通認識をもつだけでも一苦労です。

弊社では会社の成長スピードに追い付くために、すべて社内の担当者が一人で担います。クオリティは80点でも最速最短で求めるものを提供し、残りの20点は保守運用まで内部で責任をもつことによって後から埋めていくという姿勢で業務を進めております。

ニーズに合わせた統合営業ツールを自社開発

益本:自社開発された営業ツール「AetA」についてもお聞かせいただけますか?

多田:「AetA」は名刺管理と営業マップとSFAを統合したツールです。これまでは行動予定を立てる、日報を書く、名刺を登録する、メールを送る、会議資料を作成するという業務を別個に対応していましたが、すべてを統合することで二重入力の手間をなくしつつ、情報検索の効率を上げることが可能です。

それぞれ単体では優れたSaaSが提供されているのですが、すべてをまとめたツールというものが存在しなかったため、自社で開発することとなりました。

益本:営業マップには接触履歴も記録できるんですね。

多田:はい。本来不動産の営業ではとにかく顧客との接触時間を最大化しようと動くので、記録や情報共有の時間は極力省きたいものなのですが、コツコツ頑張ることによって2、3年後に価値ある情報集積として活用できるツールを作りたいという想いがありました。

「AetA」のデータはほぼリアルタイムで経営層まで報告されます。いつどこで見られているかわからないという意識が働くことで営業職員が自然とデータを入力するようになり、情報資産を形成していくというわけです。

益本:名称の由来は何でしょうか。

多田:「あなたにアエタ」という語呂合わせになっています。まず「A」の形を人が立っている姿に見立てました。「et」はフランス語で「AND」という意味です。つまり「AetA」で「人と人」「あなたとわたし」というニュアンスを表しています。人と人のつながりが基本となる不動産の営業に役立つツールという意味で名付けました。

営業職員の行動データと成果の関連性を分析する

益本:御社とのプロジェクトをスタートする際、すでに十分なデータが蓄積されていることに驚きました。中橋さん、JDSCとしてはどのような取り組みを行ったのでしょうか。

中橋:我々のミッションは「AetA」に蓄積された営業職員の行動データを活用して、訪問行動と成果の関連性について分析し、可視化することでした。誰がどこの仲介業者に行ってどれくらい話をしてきたのかを分析したうえで営業職員にフィードバックすることが目的です。

具体的には、フェーズ1では成約に対する接触時間や回数の影響評価の分析、フェーズ2では仲介業者と物件の位置関係、最寄り駅の規模が成約に与える影響の分析を行いました。

意識した点として、まずデータを分析するためには他の要因による影響を排除しなければなりません。いわゆる「シンプソンのパラドックス」というものです。こちらのグラフは、色がついていない状態で見ると右肩下がりの傾向が見られるのに、色がついた状態で見るとグループごとに右肩上がりの関係性が見られます。データを分析するには適切な見方があり、必要な情報が欠落すると得られる結論が大きく変わってしまうということを示しています。

こうした点を踏まえて営業職員の営業行動を分析するにあたり、オープンハウスグループ様が「AetA」で蓄積されてきたデータが大いに役立ちました。

フェーズ2で弊社から提示したのが、営業職員さんが訪問した仲介業者を位置情報で示した図です。左の方と右の方では行動範囲の分布が大きく異なります。

益本:多田さん、こちらをご覧になった印象は?

多田:左の方に比べると右の方は努力しているのになかなか成果があがらず、なぜなのかと思っていましたが、図を見て謎が解けました。訪問先や移動ルートは営業職員の自主性に任せていますが、ここまで違いがありそれが成績に直結しているのであれば、やはり一定の指針を示す必要があるのだろうと思います。

中橋:伸び悩んでいる方に対して、成績優秀者の訪問パターンを示すだけでも行動が変わるかもしれませんね。

ただ、分析結果を出すまでには苦労もありました。例えばテーブルを結合するために必要なキーと呼ばれる変数が用意されていなかったり、キーとして使おうとした列の情報に表記ゆれがあり紐づかなかったりといったことがありました。

データというのは収集することも大変ですが、その活用となるとまた別の課題が見えてきます。収集段階から、何のために使うのか、どのような活用が考えられるのかを見据えて設計するべきだということは、私にとって発見でした。

フェーズ2では仲介業者と物件を最寄り駅に紐づけることが必要でした。しかし最寄り駅が複数ある場合があり、すべての組み合わせで紐づけようとすると計算量が膨大になってしまいます。そこで、「最短距離が400m以内である」とか「乗降客数が最大の駅を選ぶ」といったルールを設けて計算量を抑制することにしました。

そのように収集したデータは改めて加工統合し、分析用のデータマートを作りました。

AIが導き出す営業活動の最適解

中橋:多田さんは本プロジェクトの中でデータを再加工するうえで苦労したことはありましたか?

多田:営業の成果である申し込みデータだけが「AetA」の業務運用に組み込まれておらず独自管理になっていたため、手動で紐づけを行うこととなりました。しかし同姓同名の仲介業者さんがいるなど不一致が起きる可能性があったため、案件の詳細を確認しながらの作業となりました。初期段階での設計の重要さを再認識しましたね。

逆に言うと、もし「AetA」がなかったらこれらのデータすべてを手動で紐づけることになります。それは不可能なので、「AetA」の価値を改めて感じ、自分を褒めたり叱ったりしながら作業していました。

中橋:まさに「AetA」あってこそのプロジェクトでしたし、多田さんをはじめとする情報システム部門との連携も成功要因でした。

データを結合した後は、機械学習の手法を用いて成約を予測するモデルを構築できました。そして構築したモデルに新規の物件の情報を加えることで、成約確率[の高い営業活動の方針を導出することができるようになりました。現在は一緒に構築した学習済みモデルを用いて営業活動の方針を示しながら仲介業者さんを訪問してもらおうという実証に取り組んでいます。

益本:プロジェクトの開始前、いわゆる「2:6:2の法則」について議論しました。中間層である「6」を上の「2」に引き上げることは科学的にできないのか?というところからスタートしたと記憶しています。

営業部隊を持っている会社ならどこでもそういった課題を抱えているかと思います。データを活用して適切な選択肢を導いていくのは根本的な課題解決の一つですね。

JDSCは専門知識と現場感覚を併せ持つパートナー

益本:今回のプロジェクトは御社にとっても弊社にとっても大きな挑戦でしたが、パートナーに弊社を選んでくださったのはなぜだったのでしょうか?当時の印象などざっくばらんにお聞かせいただけますでしょうか。

多田:正直、最初は「そもそも営業って科学できるのか?」と半信半疑でした。御社のことは非常にアカデミックな企業だと思っていたので、営業の論理とは対極にあるように感じていました。自分たちにない技術を求めているものの、技術を披露するだけで実を伴わないような結果に終わるのではないかという懸念もありました。

かなり厄介な注文をつけたと思いますが、真摯に向き合ってくれたことに感謝しています。今では専門知識も現場に寄り添うマインドも併せ持った、とても頼りになるパートナーだと思っています。

益本:技術はあるけど現場の要望にはそぐわないというケースはAIスタートアップでありがちな状況ですね。現場に寄り添うという言葉をいただけて嬉しいです。中橋さんはオープンハウスグループ様とお仕事されていかがでしたか?

中橋:不動産営業は勘と経験に基づいた属人的な領域という印象が強かったのですが、オープンハウスグループ様ではデータをしっかりと蓄積されていて、「データを活用して不動産営業を強くしていく」という意志を感じました。実際、別の業界で営業職員の行動分析をお手伝いさせていただいたときも、データの取得や活用に積極的ではありませんでしたので。

不動産領域のさらなる課題解決に期待

益本:今回のような試みが広がると、不動産業界全体にも変革をもたらしそうですね。オープンハウスグループ様としては今後どのような挑戦をお考えですか?

多田:営業部門に限らず、不動産の業務について科学的なアプローチを積極的に入れていきたいです。

勘、コツ、 気力、精神力といった属人的な力は決して悪いものではありませんし、弊社をここまで押し上げてきたものなので大切にしていきたいと思っています。一方で従業員やお客様のニーズは多様化が進み新しい考え方が出てきているので、これまで通りではいられないのかなという想いもあります。

どのデータ分析がどう役立つか確証は持てませんが、選べる手段は多い方がいいだろうと思います。意欲のある人を広く受け入れて結果に報いていくという方針の中で、さまざまな人が多様なかたちで活躍できる場を用意する責務が会社にはあります。今回のデータ分析はその第一歩となると確信しています。これからも社員の行動を深く知り、継続的に成果を挙げ続けるための要因を分析していきたいです。

益本:中橋さんの展望はいかがでしょうか。

中橋:せっかくこのような機会をいただけたので、不動産領域の課題解決に取り組んでいきたいと思います。例えば現在、空き家の活用について検討が進められていますが、データサイエンスが役に立てるのではないでしょうか。

今後日本の人口構成が変わっていく中で、これまでのように「建てれば売れる」という状況も変わっていくので、物件の需要に基づいた売り方・建て方を、データサイエンスを用いて見据えていくことが必要なのではないかと思います。また昨今指摘されている建築業界における人手不足、労働問題の解決などにも取り組めたらよいですね。

益本:人口減少は確実に予測されることですから、どの業界も大きな影響を受けることになりますね。10年後、20年後を見据えたとき、不動産はどうなっていくと思われますか?

多田:個人的には、より都市部に人が集中するのではと思います。そうなると住まいに求められるものも変わっていくはずなので、そこに対して真摯に向き合っていくべきだと考えます。

益本:そうですね。今回のような営業行動をデータサイエンスで分析するような取り組むチャンスもまたあるかもしれません。将来を見据えた挑戦もぜひ一緒に取り組んでいけたらと思います。

本日はありがとうございました。

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■株式会社オープンハウス
グループ情報システム部 システム企画G 企画課 マネージャー
多田 莞司 氏

東京大学卒業後、株式会社オープンハウス(現:株式会社オープンハウスグループ)に入社。収益不動産事業の営業、事業企画を経て、2023年より情報システム部に在籍。事業企画在籍時、BtoB営業活動のデータを一元管理する自社システムの開発プロジェクトを企画推進。現在はその経験を踏まえ、ITやデータの利活用についての企画立案を行う。

■株式会社JDSC VPoDS
中橋 良信

■株式会社JDSC
益本 佳代子

文/大貫翔子


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