不在配送ゼロ化
AIプロジェクト

スマートメーター
(通信機能を保有している電力計)から
取得される
消費電力データを用い、
将来の在不在を予測するAIが
最適な配送ルートを案内し、
不在配送を解消

背景と課題

不在配送がもたらす、
配達者と顧客双方の不便・不利益

個人向け配送における「不在配送件数」は全宅配件数のおよそ2割、2,000億円のコストに相当すると言われており、
深刻なドライバー不足と労働生産性の課題を抱える物流産業の悩みの種となっています。 ※ 「宅配の再配達の発生による社会的損失の試算について、『不在配達にかかる作業時間』年間約1.8億時間」
(国土交通省2015年)より概算

現状の取り組みの限界:時間指定でも改善せず

再配達削減アプローチ
1

不在時も受け取り可能にする

○宅配ボックス設置拡大
○駅/コンビニでの受け取り拡大

▼
現状/課題

○ハードへの新たな投資を要する
コスト高・スペースの確保が必要
○企業/自治体が取り組み中だが、
普及率に限界がある
○冷凍、貴重品など
一部使えない荷物も

再配達削減アプローチ
2

不在時の配達を削減する

○配達時間指定の拡大

▼
現状/課題

○時間指定でも
再配達は依然2割
○予定は変わる…
その変化に情報が追いついていない

解決策

各戸に設置されたスマートメーターから
取得される電力データをAIが学習し、
配送時刻における
在宅予測に基づいて、
在宅先から優先的に
配送するルートを自動生成する

配送実験

スマートメーターから取得される電力データをもとに、人工知能が不在先を回避するルートを配送者に示すシステムを開発。 同システムを活用し、2018年9月6日〜10月27日、東京大学構内にて配送実験を実施。

システム未使用

人が最短経路を判断し配送

システム未使用

システム使用

AIが在不在予測(左下)に基づき
提示するルートで配送

システム使用
配送成功
不在配送
初回配送ルート
不在配送に伴う再配送ルート
結 果

AIが示す不在先回避ルートで、
配送成功率は98%に

人工知能が不在先を回避するルートを配送者に示したことにより、配送成功率は98%に上り、 人の判断で配送した結果と比較すると、現状発生している不在配送の9割以上が削減されることが実証された。
不在配送削減に伴う再配送が削減することで、移動距離も5%短縮されることがわかった。
さらに、これまで特定されていた“不在”というプライバシー情報が配送者に伝わることがなくなり、 より個人情報保護が強化される結果が示された。

COMMENT

東京大学大学院情報学環
越塚 登 教授
不在配送は、現在の日本の個配物流における最も重要な問題の一つだと考えています。AIの技術とIoTの技術を適用することで、これを効果的に解決できることがわかったことは、大きな一歩だと思います。一方、各戸のスマートメーターの情報を外部に出すことは、プライバシー上の懸念があるかと思います。ところが我々の手法の特徴は、むしろパーソナルデータを利用して、プライバシーを守る点にあります。今回我々が開発した新しい手法に基づいたルート指示からは、各戸の在不在を極力隠すことができる工夫がなされています。
ここでは、配達の順番を決めるというプライバシーに関わる処理は、人ではなくAIが行うので、プライバシーは他の人から守られるのです。これを発展させて考えると、人に知られたくないこと、プライバシーに関わることは、むしろ積極的にAIやロボット、機械に担ってもらうという、新しいサービスコンセプトが今後はあらゆる局面で重要だと考えています。
実用化に向けた取り組み

今後は、自治体と配送会社との協力のもと、実証実験を行い、2022年度中の実用化を目指していきます。

プロジェクト協力会社・研究室
東京大学大学院情報学環
越塚登研究室

情報社会における石油とも言われる「データ」。当研究室は、コンピュータ・サイエンスとデータ・サイエンスの知見を駆使し、産業・社会の「デジタル社会変革(Digital Transformation)」を起こすことに取り組む。現在、越塚登教授は東京大学大学院情報学環 副学環長・教授 およびユビキタス情報社会基盤研究センター長を務める。

東京大学大学院工学系研究科
田中謙司研究室

田中謙司特任准教授 技術経営戦略学専攻、システム創成学専攻(兼担)大規模データを活用した社会システムおよびビジネスサービス設計に取り組む。特に物流・流通分野での需要予測法や事業シミュレーションを用いた具体的な導入システム設計およびサービス設計の研究を行う。最近では分散化社会におけるブロックチェーン等を活用したP2P電力融通システムの研究開発を進める。

PAPERS
Shimpei Ohsugi, Noboru Koshizuka, "Delivery Route Optimization Through Occupancy Prediction from Electricity Usage" (IEEE COMPSAC 2018)

Shimpei Ohsugi, Kenji Tanaka and Noboru Koshizuka: "Privacy enhancement for delivery route optimization through occupancy prediction", 2019 8th International Conference on Software and Computer Applications (ICSCA 2019),To be published
FOOTNOTES
(※1) 国土交通省 "宅配の再配達の発生による社会的損失の試算について" 2015.8.25
(※2) 国土交通省 "宅配の再配達の削減に向けた検討の進め方について" 2015.6.5
(※3) 資源エネルギー庁 "電力会社におけるシステムの開発・整備状況及びスマートメーターの設置状況" 2015.10.27
(※4) 日本テレビ News24 "増え続ける「再配達」効率化への取り組み" 2017.1.24
http://www.news24.jp/articles/2017/01/24/07352331.html