金融機関×AI×デジタルが解決する業界共通課題とDXのこれから
2023年10月24日に開催されたオンラインイベント『UPGRADE JAPAN!! JDSC DAY 2023〜AI・データサイエンスの力で業界DXはここまで進化する〜』。
Session 5では、日本政策投資銀行 経営企画部デジタル戦略室の北村様、原田様にお越しいただき、「金融機関×AI×デジタル」の組み合わせでどのように社会課題を解決していくのかという未来構想についてディスカッションを行いました。
投融資一体で産業の発展に貢献してきたDBJ
吉井 勇人(以下 吉井):本日は日本政策投資銀行(以下 DBJ)様から、北村様、原田様にお越しいただいています。
DBJ様は金融のプロフェッショナルとして、我々JDSCはデータやAI活用のプロフェッショナルとして、共に今『UPGRADE JAPAN』に向けて、業界の共通課題に取り組んでおります。
今日は、我々がどのような構想を持っているのかをご紹介させていただきます。「なかなか良い世界観を描いているね」と思っていただけましたら、非常に嬉しいなと思っています。
それではまずはDBJの皆様、日本政策投資銀行について、またご所属の部署について、ご紹介をお願いいたします。
北村 研一(以下 北村):日本政策投資銀行の経営企画部デジタル戦略室から参りました北村と申します。
「デジタル×金融」という軸で日本のDXの推進に役立つ取り組みを探索するということをやらせていただいております。
今日はその中で見出してきた様々な気付き、学び、あるいは課題、そういったものをぜひ皆さんとシェアしたいなと思っています。 冒頭にDBJの紹介と、私どもの部署の取り組みについて簡単にご紹介したいと思います。
私どもは日本政府が100%出資している金融機関でして、「金融力で未来をデザインします」ということを掲げております。
政府出資ということもありますので、長期性、中立性、パブリックマインド、信頼性などを軸にこれまで事業を展開してきており、過去から振り返ってみますと、戦後すぐに設立され、当初は経済の復興のために電力や造船など非常に長期の融資を中心に「産業を金融の面からサポートする」ということをずっと展開してきました。
直近はいわゆる長期のご融資という役割が少しずつ縮小しながら、新たな価値としてリスクマネーの提供という取り組みを始めました。これまでは融資だけだったところから、2000年代以降は投資も加えながら投融資一体で取り組み産業をどう発展させていくかということを考えてきております。
ここからは、今回のプロジェクトにも繋がるお話をさせていただきますが、直近の中期経営計画では 産業をつなぐ、世代をつなぐ、あるいは地域をつなぐ、こういった「つなぐ」というのをキーワードに掲げております。
一つの会社の範囲だけで成し遂げられるデジタルトランスフォーメーションは限られているため、やはり多くの会社、地域、世代、そういったものをつなぐことによって、新たな価値が見出せるのではないかというのが基本的な考え方です。
我々の中立性をうまく活用していただきながら、「つなぐ」ということに貢献したいと思っております。
この、複数の会社や業界全体を巻き込んだようなデジタルトランスフォーメーションを目指したいというのはJDSCさんとDBJの共通した思いでございます。
北村:続きまして、経営企画部デジタル戦略室のご紹介でございます。DBJはデジタル戦略室を3年前に立ち上げまして、事業を展開しております。
デジタル戦略室のうち、一つは社内のデジタル化、業務プロセスをデジタルの力でどう変えるかというもの。もう一つはお客様向けの投融資のビジネスをデジタル化していくというものです。私と原田の2名は、後者について試行錯誤しながら考える役割を担当しておりまして、その文脈でJDSCさんとディスカッションさせていただいております。
吉井:ありがとうございます。改めて、金融という力で日本を支援なさっていらっしゃったんだなというのを聞かせていただきました。
世界の中でも日本がより競争力を上げていくためには、データやAIの利活用というところは非常に重要なのではないかと思っております。
DBJ様が金融の力でテコ入れしてくださるのは、我々としても非常にありがたいと思っております。 金融とデータ、AIによる掛け合わせで起こせるDX。これは一体どういったものになるのかについてお考えを聞かせていただけますでしょうか。
JDSCとDBJが目指す「業界全体の刷新」とは
北村:これはよく言われておりますけども、デジタイゼーション、デジタライゼーション、それからデジタルトランスフォーメーションと、デジタル化には大きくこの3つのステップがございます。
デジタイゼーションというのは、いわゆるツールのデジタル化です。例えば紙で何か保存していたものを電子的に保存する、これまで紙で送っていたものをメールにする等ですね。これは比較的取り組みやすい分野かなと思います。
次にデジタライゼーションというのは、プロセスのデジタル化です。複数部署に跨ったプロセス全体を例えば1つのシステムでやる、あるいはそのシステム間のデータの連携を整えて、 一気通貫でプロセスが進んでいく。こういったことがデジタライゼーションだと思っています。
さらにデジタルトランスフォーメーションというところまで来ますと、それを使って対外的なビジネスとして新しい価値を生み出す、それに基づいて会社の組織自体を転換していく、そういったことまで含む非常に難易度の高い概念だと思っています。
通常この横軸だけで語られるんですけども、JDSCさんと議論していく中で、我々が考えなければいけないなと思ったことは、縦軸についてです。
デジタルの進化を一つの会社の中だけでやるのか、 それとも他の会社と広げていくのか、こういった軸があると思っています。
繰り返し申し上げますが、1社の中でだけでできることは必ずしも多くないため、業界で連携してやりましょう、という方が良いわけです。
社名にコンソーシアムと入っているJDSCさん、つなぐという機能があるDBJ。この両者の交差点というのは「他社と連携した業界全体の刷新」であると考えております。
吉井:ありがとうございます。他社とのデータ共有による効率化・業務刷新については、JDSCが創業以来強く意識してやってきたことです。
その中で常に悩ましいと思っていることは、やはり「業界共通みんなでやるんだよね?じゃあ誰がお金出すの?誰がファーストペンギンになるの?」と。ここが常に論点になってくるかと思います。
それに対しては、効果が出た後にそのリターンをみんなで分け合う仕組みであったり、ソーシャルインパクトボンドのような形の金融商品だったり、金融の機能が必要になってきます。
そのようなどうしてもブレイクスルーできない、ある種のステイクホルダー間の調整をDBJ様と一緒に実現できるのではないかと思っております。
やはりDXにおいては、金融が機能として非常に重要なんだということを私としても感じているところでございます。
北村:金融の機能について、特にデジタル化の文脈で我々がどう捉えているかということを、もう少し具体的にご説明させてください。
一つはリスクの移転です。つまり資本参加することによって、元々自社だけでは取り切れないリスクを金融機関あるいはその投資家に移転する、そういった機能です。
もう一つは、パートナーシップの構築です。複数の関係者が一つの集まりの中に入ると、当然誰がどういう役割をやるのか、リスクを負担するのか、資金を負担するのか、こういう話になります。そこを金融の力でうまく調整して皆さんが納得できる形でのパートナーシップを構築する。これも金融の役割だと思っています。
この二つの機能をうまく使って日本社会のデジタル化をどう進めるか、というのがテーマになっております。
業界全体のコミュニケーションのデジタル化を計画
吉井:金融×デジタルでのDXとして、我々が今着目している6つの業界をシェアさせてください。
まずJDSCが今、注力領域と定めているエネルギー、ヘルスケア、製造業、物流です。この4つの業界を一緒に改善していけないかと意見交換をさせていただいております。
それに加えて、コロナ禍でダメージを受けた飲食業、観光業についても現在注力をさせていただいております。この中から本日はエネルギー業界の事例について、JDSCの松野からご紹介させていただきます。
松野 淳(以下 松野):よろしくお願いいたします。エネルギー業界では、やはりカーボンニュートラル化の達成に向けて、各社とも社会課題に対する意識が非常に高まっています。
けれども業界内でなかなか横連携ができず、業務が非効率であったり、高い目標を掲げても達成できなかったりという課題が生じています。
ただ一方で、非常に余地が大きい領域であると感じています。例を挙げますと、鉄スクラップの収集効率化というものがございます。
これまでは鉄スクラップの収集にあたっては、鉄鋼メーカーとスクラップの卸業者、その先にいる中小規模のスクラップ事業者のコミュニケーションは電話、メール、対話などかなり人力で行われておりました。
そこで我々が今取り組んでいるのは、業界のコミュニケーションをデジタル化し、業務効率化をするというものです。
ただ、その共通化にかかる費用の負担、 DXのプランニング技術開発、さらには誰が推進すべきかという責任が非常に曖昧になりやすい。
その辺りをDBJ様のような金融機関と、我々のようなDXの支援企業が手を取り合う形で企業間を繋ぐということを果たしていきたいと考え、取り組んでいるところです。
吉井:もう一つ事例として、私のリードさせていただいているヘルスケアチームの案件を説明させていただきます。
DBJ様とお話しさせていただいていますのは、地域の医療を守ろうということです。
地方ではお医者さんもコメディカルの成り手も非常に少なくなっている。つまり、地域医療が崩壊しつつあるというようなエリアもたくさんございます。
地域医療は金融と同じく重要なインフラだと思っています。それを支えていくためには、やはり全体でデータ共有をして効率化を図っていく、こういったことが非常に重要です。
しかしそれを誰がリードしていくか、そのために必要な資金はどうするんだというと、なかなか医療機関は難しい。
そこでDBJ様には、リスクをサポートしていただく、あるいは複数のプレイヤーを繋ぐ、そういった機能をお願いしたいと考えています。
我々はそこに集積されてくるデータの器を作り、その器の中に溜まったデータをうまく調理加工する。ここが我々JDSCの腕の見せどころなのかなと思っています。
データ連携で得られる対価を提供側に示す
北村:今までの話を改めてお伺いすると、他社との連携は当然やった方がいいよねと思うことばかりなんですね。
でも実際には、例えば医療のデータの共有ができていない現状になっている。これはどういった背景があるのでしょうか。
例えば、関係の皆さんの間で中々そういった同意されないのか、あるいは事業者の人が他社と連携したくないのか。
吉井:今おっしゃっていただいた両面があると思っています。 ただ、それはデータを提供し連携することによって得られる対価がいまいち見えてないからではないかと思っています。つまり成功事例というのがないからです。
よく紹介されるのがアメリカのディズニーワールドにおけるマジックバンドの事例です。
マジックバンドでは、園内のどこにいるかというGPSデータを取得しているんです。なぜあれを人々が嫌がらないかと言うと、例えばお子さんが迷子になった時に、居場所を確実に把握することができて安心安全ですよ、ということを謳っているからです。
つまり、データを提供する側が「これは便利だぞ、メリットがあるぞ」と体感できるかどうかが勝負なのではないかと思っています。
北村:当然そうすると、収集する企業の方にメリットがあるのは当たり前で、逆に提供する方にメリットを作っていく、そういった仕組みが必要だということですね。
吉井:おっしゃる通りだと思います。
例えば医療のデータに関しても、 自分の健康診断のデータをプロフェッショナルなドクターに提供しアドバイスをもらえている。ただそれを他の人にも渡すことによって、さらにより良いアドバイスがもらえるということであれば、きっと皆さん提供されると思うんですよね。
あるいは採血が嫌いな人であれば、「昨日別のクリニックで採血したのになんで今日また採血しなきゃいけないんだ」と思うので、だったらその血液のデータは当然クリニック間で共有してくれた方がいいと言ってくださると思うんです。 ですからデータを提供する側がいかに便益を感じられるか。そこがやはり重要なポイントではないでしょうか。
非常にシンパシーを感じた、JDSCの思想
吉井:DBJ様は2000年代からリスクマネーを供給するという形で、新しい自分たちのビジネススタイルを確立されようと思って動き出されていたかと思います。
その中でDX、データ、AIに対してリスクマネーを投じるというのは、非常に大きなチャレンジだと思うんですよね。
当然我々もプロフェッショナルとして頑張らせていただいてはおりますけれども、なぜ当社を選んでいただけたのか、お伺いしてもよろしいでしょうか。
原田 啓太(以下 原田):最初にJDSCさんのお名前を聞いた時は、外資系のDXコンサルさんなのかなと、ちょっと警戒しちゃったんですけども。
よくよく聞くと「日本の課題をデータサイエンスの力で解決していく」という会社のビジョンが、私どもが目指している「金融力で未来をデザインする」というところと重複する部分がありまして、まずはそこで非常にシンパシーを感じたというところです。
私どもDBJは当然株式会社ですから、経済的価値というものを追求しておりますが、同時に社会的価値も実現していきたいという非常に欲張りな銀行でして。そこの相反する価値をどういう風にバランスを取りながら最大化していくか、ということをテーマに頑張っているところです。
デジタルというのは、これから経済がシュリンクしていく中で避けては通れない各社共通の課題です。 残念ながら我々はデジタルの知見なりノウハウはないですけれども、そこを外部のプロフェッショナルの方と共同することによって、我々は金融としてご支援を頑張っていこうと、そういう思いです。
特にJDSCさんは会社の方向性も非常に合致しているというだけでなく、バックグラウンドが多様な方がたくさん揃っていらっしゃって、楽しくお仕事ができております。
一朝一夕で生まれる信頼関係ではないんですけれども、ここまで関係を築くことができというのは、我々としても本当に感謝をしているところでございます。
吉井:ありがとうございます。
やはり一緒に目指している世界、 例えば弊社代表の加藤がよく言っている「経済性と社会性を両立させ日本を変えていく」という思想、DBJ様にそういったところをご評価いただけてるのは大変ありがたいと感じております。
吉井:今度は松野さんへの質問ですが、どんな世界をDBJ様と一緒に描いていきたいですか。
松野:私たちJDSCは、各業界の社会課題解決に向け、企業をつなぐ取り組みを進めておりますけれども、 現状としてまだパートナーが見つかっていない、見せ方がわからないといった企業は沢山おられると思います。
そういった企業に対して、私たちのDXだけではなく、DBJ様のファイナンス、投融資という力もお借りした上で、まずはちょっとしたパイロット的な成果をこの取り組みの中で作っていければと思っております。
そうすることによって業界内だけではなく、業界を横断する形で賛同いただける仲間が増えてくると思っております。
かなり地道な活動に映るかもしれませんが、そういった中長期の目線で歩んでいけるというところが、DBJ様とJDSCの強みだと考えております。
吉井:やはり地道なことの積み重ねでしか大きなことは成せないと思うので、私も松野さんに言っていたことに大賛成です。
金融の力で日本を変えていく
吉井:DBJ様からはいかがでしょうか。
北村:今おっしゃっていただいた通りですが、一緒に皆でDXの課題を解決していこうというのは非常に手間のかかる仕事ですし、銀行がこれまでやってきていないような仕事だと思います。
難しい仕事になりますが、だからこそやりがいもあります。また金融機関から見れば、ある意味将来の安定を作り出す部分もありますので、時間軸の長い取り組みになりますけども、うまくいい形でやりたいなと思っています。
もうひとつ金融というキーワードから言いますと、金融機関がお金を出せるようなプロジェクトを率先して作り出したいと思っています。
そうすれば、DBJだけではなくその地域の地方金融機関の方々も含めて「地域の皆でまとまってデジタル化する投資をしていこう」という取り組みができるのではないか、と考えています。
多くの金融機関にご参加いただくことで、皆でうまくこのデジタル化を盛り上げていけるといいんじゃないかな、と思っております。
原田:地方なり日本の課題解決にあたっては、経済的価値を生むための準備期間が非常に長いと思うんですね。
ですから経済的価値というのは少し遅れてくると思うんですけれども、 コンソーシアムが大きくなっていけば当然資金規模も大きくなっていきますし、そうすると我々が本業としているファイナンスの力が発揮できると思います。
ただ残念ながら、我々は事業主体にはなれないというところがありますので、ぜひ意欲のある方とコンソーシアムを作って、御社の力も借りながら、日本の国益のために引き続き頑張ってまいりたいと思っております。
吉井:ありがとうございます。繰り返しになりますが、私もやはり一朝一夕で業界の課題を解決できるとは全く思ってはおりません。
一つの取り組みにじっくりと腰を据えて、5年、10年で成すことができれば十分なんじゃないかなと思えますし、私はこの社会人としての残りの人生をそこに投下する、それぐらいの時間軸がかかるんだろうなと思っています。
その上で、やはり我々どもが今検討し始めている領域というのは、あくまでもまだ6つにしか過ぎない。日本には無数に産業がありますので、果たしてDBJ様とJDSCがこの先1世紀一緒に仕事をしたとして、本当に日本を変え切れるのか。それぐらい壮大な大きな問題が転がっていると思っています。
やはり北村さんのおっしゃったように、我々が「こういった変革のやり方があるんだぞ」ということを世界に示す、それも大きな意義があると考えております。
もちろん、我々だけで何か事を成せるとは思っていませんので、やはり良きパートナー様と一緒に、日本を変えていければいいなと思っております。
■北村 研一 様
(株式会社日本政策投資銀行 企業金融第2部兼経営企画部デジタル戦略室 課長)
2007年日本政策投資銀行に入行。再生可能エネルギーへの投融資事業を経験した後、現場の問題意識をもとに企画部門にてデータを活用した経営の推進を担当。足下ではデジタル時代における投融資ビジネスの変革の議論を推進中。
■原田 啓太 様
(株式会社日本政策投資銀行 業務企画部兼経営企画部デジタル戦略室 調査役)
2012年日本政策投資銀行に入行。本支店で製造業やエネルギー等の幅広い業種を担当した後、経済産業省出向を経て2022年より現職。現在は営業部店の統括・各種支援を本業としながら、デジタル戦略室の顧客DX支援プロジェクトにも従事。
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