【対談】 ビジネスにおけるデータ活用とAIのこれから〜未来の市場で勝つ戦略〜

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【対談】 ビジネスにおけるデータ活用とAIのこれから〜未来の市場で勝つ戦略〜

2024年10月23日(水)に開催された自社ウェビナー「UPGRADE JAPAN !! JDSC DAY 2024〜AI時代を勝ち抜く、リーディングカンパニーのDX最前線と今後の展望〜」。

ウェビナーの冒頭では当社のアカデミアパートナーである東京大学大学院情報学環の越塚 登教授をお招きし、JDSC代表の加藤 エルテス 聡志と対談させていただきました。

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AI×データの時代。自らへの「投資」が情報産業を強くする

加藤 エルテス 聡志(以下 加藤):本日はありがとうございます。まずは簡単に、自己紹介をお願いできますでしょうか。

越塚教授(以下 越塚):東京大学大学院情報学環でコンピューターサイエンスを専門に研究しております、越塚と申します。本日は宜しくお願いいたします。

研究にあたっては、大学に閉じこもって論文を書くだけの「研究のための研究」ではなく、より現場に近い場所で、社会課題の解決につながるものを作っていくことが大事だと思っています。そのためには産業界との共同研究は大いに有意義です。

特に、スタートアップという立ち位置で積極的に新しいことに取り組んでいるJDSCさんとご一緒できればと思っていました。

加藤:ありがとうございます。

先生は頻繁に海外に行かれることがありますし、政府の重要なポジションに参加されていますので、ご覧になっているパースペクティブが我々とは若干異なるように思います。そこでお伺いしたいのですが、現在DX、AIといった分野はどういったトレンドにあるのでしょうか。概況とともに、先生の私見をお聞かせください。

越塚:まずAIのトレンドは日本でも世界でも目を見張るものがあります。私たちアカデミアの世界でも、コンピューター系の論文の90%はAIに関連するものです。これまでにもコンピューターの世界ではさまざまなブームがありましたが、現在のAIトレンドは過去最大だと思います。

もう一つはデータです。数十年前は競争領域といえばハードウェアでした。次にソフトウェア、基盤ソフトウェアOS、さらにアプリケーション、サービスと進化し、ついにデータまでたどり着いています。だからこそAIの中でも機械学習やLLMなどより大きなデータを使うことによって競争力の差をつけるようになってきていますので、今やAIとデータは不可分といえます。特にデータに関しては欧州を中心に動きが出てきているなという印象を持っています。

加藤:なるほど。その中でも、本来日本がキャッチアップするべきなのに追いついていないものや、気づけていないトピックはありますか?

越塚:データ領域ですね。データに関連するプロジェクトは、個人情報保護や著作権など、ある程度法的な保護が求められます。そのためデータを活用して何かをしようとすると、レギュレーションや制約を設ける必要があるんです。この部分は日本が得意としているはずなのに活かしきれていないと思います。

加藤:といいますと?

越塚:例えばアメリカは規制を緩和することが得意ですが、規制を作ることが不得意です。ヨーロッパは規制を作ることは得意なのですが、数十カ国からなるEUでは各国で法律が異なるため、AIの倫理やデータの扱い方を一本化することが容易ではありません。この点はアメリカも州ごとに50の法域があるので同じですね。

一方で日本は規制を設けることが得意ですし、全国統一の法律に準拠することができますからやりやすいはずなんです。AIとデータの組み合わせが主流となる時代では、日本にチャンスがあると思います。

加藤:法律やレギュレーションに対する姿勢も違うように思いますね。アメリカでは「法律がないからやっていいはずだ」という考え方になりますから。逆に日本はオーバーコンプライアンスといえるほど、過度にレギュレーションを意識しすぎるきらいがあるようにも思います。

越塚:それは欧米と日本では基本的な法体系が異なっているためですね。アメリカやヨーロッパで用いられる英米法はブラックリスト式で「やってはいけないこと」が書かれています。それに対して日本の大陸法は「やっていいこと」を書くんです。既存の法律に含まれない事案が発生したとき、英米法は「やってはいけないこと」に含まれなければ問題ないという考え方になりますが、大陸法ですと「やっていいこと」に含まれないことはなかなか実現に至りません。

また、国民性の違いもあります。海外に「追いつき追い越せ」の時代は明確な目標設定があったので発展しやすかったのですが、新しいものに投資するとなると、二の足を踏んでいるといえるでしょう。

加藤:確かに、日本企業では新規プロジェクト立ち上げにあたっても、担当者が比較的実現しやすい「丸いプラン」にしてから上層部へ提案し、意思決定がなされているように思います。トップマネジメントの方がリスクを取れるだけの解像度を持って判断すれば、全体のリテラシーが上がっていくと思いますが、そうならない理由は何だとお考えですか?

越塚:新しいものへの投資に対する考え方は業界によって異なっていて、特に情報通信産業は消極的な傾向です。情報通信産業がある程度成長したとき、最初に投資してくれていたのは国でした。次に金融業界にコンピューターが入るようになったので銀行各社から投資があり、次に通信業界、自動車業界と、各業界が情報通信産業に投資してくれたんです。

翻って現在、情報通信産業がどこかに投資しているかというと、そうではありません。情報通信産業自体が投資しないからプラットフォームをなかなか握れず、基幹的な部分が育っていかないんです。

加藤:トップマネジメントにしてみれば、国や銀行、産業界からの投資による成功体験が連綿とある中で、売れる確証のないものに対してリスクを懸念してしまい、投資の判断を躊躇するのかもしれませんね。

勝機はフェデレーションとディペンダビリティ

越塚:日本で仕事をしていると、「これってすぐ儲かるんですか?」というマーケットの話が必ず出てきます。そのように短期的な利益を考えすぎることによって勝機を逸したものがたくさんあると思います。代表的な例がインターネットです。アメリカの情報スーパーハイウェイ構想って日本のFTTH計画のコピーですからね。日本で先に立案されていたのに、地上デジタル放送やワンセグ放送の投資を回収するためにペンディングにしていたら、海外で実現されて逆輸入することになってしまいました。

海外のデジタルマーケットにしても、マーケットが未成熟だからと静観しているうちに東南アジアに独占されて日本製品が進出できなくなっています。海外の大手企業では、マーケットがあるかどうかではなく、先に陣取り合戦するんです。

加藤:どのくらいのスパンで利益を見込んでいるかの違いですね。アメリカの上場企業では短期的に利益を追求することはむしろ批判されていて、5年、10年先を見通した陣取り合戦が行われています。この点における海外と日本の違いは何なのでしょうか。

越塚:端的に言うと国が豊かなんだと思います。海外では、事業も業界も未成熟で利益を出せていないような場所に優秀な人材がいるということがあります。すぐに儲からない仕事でも優秀な人材を引き留めておけるほどの財力があるわけですね。

バブル期を経て日本は世界に並ぶ経済力を得たといわれますが、実はまだまだだったんです。将来的に収益が見込める仕事をもっておけるだけの財力がないから、短期的に稼げる仕事を選択してしまう。

加藤:経営学でいうところの「チャレンジャーの作戦」と「チャンピオンの作戦」は根本的に違うはずで、チャレンジャーはニッチに特化して戦うということですよね。その意味で言うと、日本の勝機はどのあたりにありそうですか?

越塚:一つの勝ち筋としては、小さいものをたくさん集めたうえでフェデレーションして、大きいものを作っていくということではないでしょうか。日本が得意としているのは、モノのクオリティを高めつつ、使う人に合わせてカスタマイズすることです。

例えば自動車では、日本に入ってくる輸入車は左ハンドルのままですが、日本車は輸出用にハンドルの位置を変えたり、その国のモータリゼーションに合わせて設計したりするくらい、相手に合わせるのが得意です。

AIにしても、アメリカ製の汎用的なAIはそのまま業務で使うのには苦しい部分があり、チューニング、カスタマイズが必要になりますが、日本製のものはユーザーに合わせて作られます。極端な話、アメリカと中国以外はそうした細やかな技術の組み合わせで勝つしかないでしょう。

もう一つは品質の担保です。同じAIでも、製造業で使われる場合は自動車の自動運転や工場のコントロールなどに連動するので、かなりの信頼性を確保しなければなりません。現在のAIの信頼性は「嘘をつかない」というようなレベルのもので、ディペンダビリティや機能安全とは別次元です。

確実に安全と言い切れるものでないと自動運転に活用することは難しいですし、宇宙分野に使うとなればますます難易度が上がります。そうしたノウハウは日本が得意としてきた部分なので、高い品質管理の技術とAIをうまく結びつけられれば大きな可能性があると思います。

加藤:生成AIも実務では精度が足りず、「サプライズはできてもディベートができない」ということが多々あります。質問に対する回答を過去のメールから引き出してほしいのか、契約書から引用してほしいのか、社内のデータベースから拾ってほしいのかというファインチューニングをしないと精度が出ないんです。

そういった精度とは別だと思いますが、何をどこまですれば製造業で求められるディペンダビリティが担保されるといえるのでしょうか。

越塚:まずはバグがないことです。機械学習のレベルが上がれば上がるほど、どこにバグがあるのかということ自体が見えにくくなってしまうので、ソフトウェア自体の信頼性が求められます。自動車産業でいえば1000個のバグのうち999個を解消したというレベルまで求められますが、同等のデバッグをAIのライブラリでやっているかといえばまだまだそのような段階ではありません。

今は実験的な使い方なので事故はありませんが、ガソリン車が暴走した時にコントロールプログラムの不具合を改善したり資料を提出したりしているように、自動運転の普及が進むにつれて同じことが起きうるでしょう。その時にAIのモジュールを保証できる人がいなければ、必ず立ち行かなくなります。

また、将来を見越してマーケットを作っていくことも大事です。ヨーロッパでは今後必要とされるであろうAIを想定してリクアイメントを設定しています。そしてそのうえでレギュレーションを決め、同時に開発を進めています。レギュレーションができたときには新しいブルーオーシャンが生まれていて、かつその開発もすでに進んでいるというわけです。このやり方はうまいと思います。

現在ヨーロッパではAI倫理についての議論が進められており、ヨーロッパ向けにAIを開発するためには特別なAIが必要になります。日本の場合レギュレーションを先に作ることはできませんが、信頼性やディペンダビリティに関する課題設定は得意なところなので、ヨーロッパ向けのAI開発でもメリットがあると思います。

加藤:全方位で新技術に投資するだけの財力があればよいのですが、先生のおっしゃる通りアメリカと中国以外にはそのような余力がないはずなので、信頼性や品質担保といった部分に特化するしかないわけですよね。

「日本型DX」で特徴を強みに。グローバル人材の育成も急務

越塚:少し話は変わりますが、日本の特徴って悪い面で捉えられがちだと思いませんか。もっと得意な点に着目したらよいと思うんです。そもそも欧米型の組織と日本型の組織は構成から違っていて、欧米はトップで意思決定をして徐々に下部へ下ろしていく「コマンドアンドコントロール型組織」、日本は現場に最大の知見がある「自律分散型組織」だと思っています。

欧米がトップからダウンへの指示系統をDXで効率化しているのに対し、日本のDXは情報共有の効率化です。日本の会社が根回しばかりしているなら、根回しをDXしてすり合わせを100倍にするような、特徴を強さにするDXも勝ち筋だと思います。

というのも、近年中国や台湾で業績を伸ばしているホンハイやファーウェイの創業者の書籍を読むと、「いいものを作れば売れる」「一生懸命働く」というような、昔の日本のバリューそのものが書かれているんです。

日本では何年も前に否定された価値観ですが、実際にその考え方で伸長している会社もあるわけです。何から何まですべて欧米型にすればよいというわけではなく、日本に一番合うかたちでデジタルの仕組みを整えていけばよいのではないでしょうか。

加藤:おっしゃる通りですね。

それでは海外で勝つための人材戦略では、どのような課題があるとお考えですか?

越塚:そもそも若者の絶対数が少ないということが大きな課題です。アメリカと日本で比べた場合、まず学生の数が3倍ほど違います。アメリカでデジタル分野を専攻している割合は全体の2分の1ほどであるのに対し、日本では理系のあらゆる領域に分散しています。掛け算するとアメリカの6分の1しか人材がいないんです。

そこで戦っていくのは苦しいのですが、トップレベルでは日本はきちんと育成できています。例えばプログラミングの国際コンテストでは、だいたい1位がロシア、2位がウクライナ、3位が中国という結果です。その次に日本、韓国、アメリカと並びます。ただしアメリカは自国で育てるというよりも優秀な学生が海外から入ってきているという実情もあります。

あとは量の問題です。AIやデータの専門スキルを持った人材を使える企業がどれだけあるかでマーケットの大きさが決まってきますので、国としてどうやって盛り上げていくのかという点が重要だと思います。

もう一つ、日本の人は優秀なのですがドメスティックすぎます。国内に閉じこもって何かを開発して、完成したものを持ってきても海外では受け入れられません。同じことをやるならグローバルな場でみんなで一緒にやろうよ、と世界からは言われます。日本の人材に足りないところがあるとすればそういった部分ではないでしょうか。

加藤:これも業界による差が大きいかもしれませんね。たとえば製造業のトップ企業はインターナショナルな傾向が強いですが、情報産業やサービス業はグローバルでのプレゼンスが非常に弱いと思います。

越塚:海外で売れるのは「説明がいらないもの」です。製造業はモノだから、活動はドメスティックでもグローバルに持っていけば売ることができるんです。コンテンツもそうですね。しかしデジタルの場合はそうはいきません。人が外に出て、説明して、一緒に仕事してという国際協調活動をして初めてマーケットができ、アライアンスができるわけです。

加藤:デジタルや情報通信の領域で国際化が成功しているのは、SAPやオラクル、ドイツ、アメリカ、グーグルあたりですよね。プラットフォーマーであれば成功しているプレイヤーがいますが、限られた国しかできていない印象があり、デジタルで国際化する方がむしろ世界的に特異なのではないかと思ってしまいます。

越塚:アメリカやドイツのプラットフォーマーが国際化に成功しているのは、汎用プラットフォームを作れたからです。例えばマイクロソフトのプラットフォームはすべて汎用ですよね。自分でソリューションを作らないし、お客様へのソリューションも作らない。どちらかというとシステムを作っているエンジニアに対してリソースを提供しています。

それに対して日本のデジタルはお客様カスタマイズに軸足を置いていて汎用的なものが作れていません。クラウドにしても、何万台もあるコンピューターを24時間365日動かし続けるための、裏方の技術のようなものが日本には欠けています。

加藤:冒頭に話した、国や銀行、通信、自動車からの投資でやってきた領域とは若干距離があり、スポンサードされないので、この投資は情報通信産業自身がやらなければなりませんね。

越塚:そうなんです。自動車や半導体など、日本が世界一になった分野は製造装置も世界一です。ではソフトウェアの製造装置って何だろうと考えると、プラットフォームなんです。これは自分たちの産業で投資しない限り手薄になってしまいます。

何万台も動かすクラウドもまさに製造装置のようなものなので、ここにもっと投資をして支えていくことが、今後日本のデジタルが世界で戦っていくための必要条件だと考えています。

加藤:コンパイラやプラットフォームなど、ソフトウェアを製造していくための装置に対する投資と、その有用性を担保するためのインテグレーション。このあたりに日本のチャンスがあるということですね。

越塚:もう一つ加えるとしたら人材です。日本の教育は素晴らしいと思いますし、コンピューターの世界で求められる数理的な思考も日本は昔から得意としています。これからのデータ、AIの時代にふさわしい知見を持っていると思うので、うまく生かして力にしていけるとよいのではないでしょうか。

加藤:そうですね。

多角的、国際的な視点からお話いただき、大変勉強になりました。本日はありがとうございました。


■越塚 登 教授(理学博士/東京大学大学院情報学環)

東京大学大学院 理学系研究科情報科学専攻 博士課程修了、2009年より東京大学大学院 情報学環教授、2019年に同学環長に就任。一般社団法人 データ社会推進協議会(DSA)会長、気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)会長、一般社団法人 スマートシティ社会実装コンソーシアム代表理事、JEITA Green x Digitalコンソーシアム座長を務める。また、内閣府 国家戦略特区 諮問会議議員、デジタル庁 デジタル社会構想会議委員、デジタル庁 データ戦略推進WG委員など政府関連プロジェクトへも多数参画。

■加藤 エルテス 聡志 (株式会社JDSC 代表取締役CEO)

東京大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニー、米系メーカー等での経験を経て、2013年に一般社団法人日本データサイエンス研究所(Japan Data Science Consortium、現 株式会社JDSC)を創設、代表に就任。

文/大貫翔子

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