センコー株式会社「物流にDX革命を起こす次世代オペレーションシステムのすべて」
現在JDSCでは、センコー株式会社様と共同でAIを活用した業務支援システム「SAIFOMW(サイフォム)」を開発、運用しています。本セッションではプロジェクトの責任者であるセンコー株式会社ファッション物流営業部 赤堀部長と田原主任をお招きし、弊社ディレクターの黒田とともに、「SAIFOMW」で目指すもの、今後の展望についてお話しします。
流通ロジの根幹を担う一大物流企業
佐藤:まずはセンコー株式会社様のご紹介と、その中での赤堀様、田原様のミッションについて教えていただけますでしょうか。
赤堀:センコー株式会社は1916年、日本窒素肥料の物流会社として創業し、2016年に創業100周年を迎えました。2017年に持ち株会社体制に移行し、センコーグループホールディングス株式会社の一員となっています。ホールディングスとしてはグループ会社188社を有し、企業理念に「人々の生活を支援する企業グループとして、サービス・商品の創造にたゆみなく挑戦する」ということを掲げております。
おかげさまで21期連続増収となり、2023年度の売上は7,784億円、本年度の中経では2026年度までに売上高1兆円という目標設定をしております。
中核会社であるセンコーには物流、商事、ライフサポート、ビジネスサポート、プロダクトの事業領域がありますが、売上高の約60%以上を物流事業が占めております。さらに物流事業は流通ロジスティックス、ケミカル物流、住宅物流、その他の物流と4つのカテゴリに分かれます。
流通ロジスティックスは小売り、卸など比較的商流の中で川下に近いセグメントになりまして、私と田原はこのうち、アパレル関係のお客様に特化して物流センターの運営をサポートしております。
物流センターは国内245カ所に営業所、総面積は336万㎡。業界トップクラスの物流センターを有しています。海外についても中国、ASEANを中心に55カ所の物流センターを展開しております。
2024年問題による大変革。人員不足、適正配置が大きな課題に
佐藤:物流業界では、トラックドライバーの時間外労働の上限規制が適用されたことに伴う物流危機、いわゆる「2024年問題」が連日話題となっています。ある調査では2030年に30%ほどの荷物が運べなくなる可能性があるというデータが出ていますが、センコー様ではどのような課題に直面し、対策されているのでしょうか。
田原:やはり年末や年度末といった繁忙期に、長距離配送を行うトラックの手配が難しくなる局面を迎えています。残業時間の上限が厳しく徹底されることで、遠方へのトラックの手配が困難になったことや、今までと同じリードタイムでモノが運べないなど、これまでと環境が全く異なるということをひしひしと思い知らされています。
赤堀:輸送力を確保するため、大型車を連結したダブル連結トラックを2030年までに100両導入する計画が進行しています。またトラック輸送以外のJRコンテナや海上輸送へのモーダルシフトも積極的に推進しています。
佐藤:2024年問題はどちらかというとトラックの輸送にフォーカスされることが多いですが、保管や荷役業務に関してはいかがでしょうか。
赤堀:私たちが担当しているアパレル系の物流センターでは、労働力不足が喫緊の課題です。ロボットの導入により省人化を図っていますが即時に自動化を進めることが難しく、さらに人件費が上がり続ける中、安定した労働力の確保ができない状況になっています。
また、日々変動する物流量に合わせたスタッフの適正な配置も重要です。弊社ではこれまで「職長」と呼ばれる熟練の指揮監督者が作業員のシフト管理、出荷予定データに対する工数予測、人員配置、作業進捗管理といった現場運用を行ってきましたが、勘や経験に頼る部分が大きく定量的な管理ができていないため、作業計画が成り行きになってしまう、業務が人に依存してしまうという課題を抱えていました。
佐藤: 物流業界にもさまざまなソリューションが増えてきているという印象があります。センコー様でも過去に何度かトライされたのではないでしょうか。
赤堀:おっしゃるように複数のITベンダー、ソリューション会社と共同で取り組みをしています。ただ、物流業界では荷主様ごとに指定されるWMSも商品も倉庫での作業も異なるため、データの一元管理や作業の標準化が容易ではありません。
そのため既存のサービスを導入するだけではなく、弊社側から実現したい機能を発信し、自社主導でDXを進めなければという想いがありました。
ビッグデータに基づく工数予測、作業員配置の業務をAIが代替
佐藤:「SAIFOMW」の前段として、2022年1月から「AI職長プロジェクト」という名前でお手伝いさせていただいてきました。こちらについて、田原さんよりご説明いただけますでしょうか。
田原:「AI職長プロジェクト」は、最適な工数の算出とタイムリーな作業別の作業進捗管理及び人員配置の算出・KPI管理を可能とするツールです。
システム構成としては、弊社の倉庫管理システムと出退勤・作業管理システムから、出荷予定データや個人別の出退勤・作業管理データをシステムへ自動連携しています。また前年実績等から作成した月間の物量計画や作業員のシフト計画は手動でアップロードし連携しています。こうして分析用のデータをシステム上で蓄積した後、AIによって最適な工数と人員配置を算出します。
最大の特徴は、最適な工数や人員配置を算出する仕組みです。工数を算出するための生産性は行当たりの点数やピッキングエリアの範囲・荷姿などによって大きく影響しますが、リアルタイムな判断が求められる現場管理においてはそこまで精緻な値を設けられず、前年や前月の実績を見て算出するケースがほとんどでした。
ですが今回は過去のデータをデータサイエンティストの方に細かく分析いただき、生産性に影響する因子ごとに傾向を把握することで、一定のデータを取り込むだけで精緻な生産性に基づいた工数の管理や、人員配置を誰でも簡単に算出できるシステムを構築しました。
赤堀:属人的な判断に頼らず、誰でも行える部分を今回のプロジェクトで見出していきたいという考えで進めてきました。ただ、経験と勘は業務運営に必要なノウハウであり、職長の業務をすべてAIに置き換えようとすると必ず失敗します。あくまでもAIは人間をサポートする役割であるということを意識するようにしていました。
システムの連携テストや PoC等の検証を重ね、現在3拠点にて導入しています。2024年7月に、「SAIFOMW」として正式ローンチとなりました。
黒田:アルゴリズムの構築にあたっては、弊社の「demand insight」をベースにしています。結果としては待機時間を原資として14%の工数削減余地、印西センターで年間1.4億円の削減余地が確認できました。
機能をフル活用し、オペレーションを現場に溶け込ませる
佐藤:構想から足かけ4年ほど、皆さんとは議論を重ねさせていただいております。実装にあたっては課題もあったと思いますが、苦労されたのはどのような点でしょうか。
田原:一つは、ビッグデータの形成に時間がかかったことです。生産性の算出に影響を与える因子やそれぞれが生産性に与える係数を導き出すため、実際の現場作業の視察を繰り返し、随時検証しながら進めていました。
中にはデータでは見えてこない内容や、予測と実績値に乖離がある場合も多々あったため、データの収集や精査に時間を要しました。現場の作業担当者・システム部・JDSCさんにも柔軟に対応いただいたおかげで精緻な数値を出すデータを作成することができました。
黒田:なぜこの数値になっているのか、システム上で可視化されて初めてわかるということも多かったですね。その原因を特定し、データ化されていないものもあるということがわかったというだけでも大きかったと思います。
田原:もう一つは、「SAIFOMW」の機能のフル活用です。AIで工数を算出することで予測と実績の乖離を減らすことは可能になりましたが、工数の過不足に合わせて作業計画を調整するという段階には至っていないと感じています。
操作性の改善等の課題もありますが、今回のシステム導入をきっかけに今までできていなかったことを行えるようにするためには、考え方を一新して取り組んでいく必要があると感じています。せっかくリリースしたシステムなので100%活用できるよう、継続して取り組んでまいりたいと思います。
黒田:実際に PDCAを回してみて、土台が整ったところだと思います。それを職長さんに溶け込ませることが、今後業務定着していくために重要です。できる限り自然にオペレーションできるような形にしていきたいと思っています。
「SAIFOMW」が次に目指すもの
佐藤:今後は「SAIFOMW」の機能を追加するとしたらどのあたりが考えられますか?
赤堀:サプライチェーン全体で見ると、物流センターの業務はほんの一部です。その前後の工程と連携してシームレスにしていかないといけないと思っています。例えば配送のフェーズでは、「SAIFOMW」と連動して必要な車両台数をAIで算出する、最適なルートを導き出して最小台数で輸送するというところまで機能を広げられるのではないでしょうか。ハードルは高いと思いますが、また現場に入って分析をしていただけたら、そういうアイディアが出てくるのではと思います。
佐藤:なるほど。倉庫の中の業務と輸配送の情報が連携していくという部分で、システムの高度化の余地がありそうですね。
黒田:はい。現在は作業のシフトを半日ごとに区切って組んでいますが、1~2時間ごとに最新情報を入れて調整できれば、例えばトラックの到着順序が変わった際に作業を組みかえるというような、リアルタイムでのシフトの最適化が可能になります。
佐藤:職長さんはリアルタイムの情報を基にシフト最適化はされているのですか?
赤堀:やってはいるのですが、それが最適なのか改善の余地があるのか検証が難しいところです。その意味ではAIを使って平準化していくことも必要だと思います。
佐藤:職長さんの中でも、業務の習熟度の差はありますよね?
赤堀:もちろんあります。そういった属人的なスキルも伸ばしていかなければ、この先の事業の拡大に追いついていかないでしょう。
佐藤:AIが提示するものにも複数のアイディアがあって、その中のどれを選択するのか、または無視して自分で考えるのかというところから職長さんが考えていくということですね。それが結果的に良い選択だったかどうかを振り返るフィードバックサイクルを作っていくのも大事になってくるのでしょうか。
赤堀:それももちろん重要です。それができるということは、担当以外の人間も客観的に実績を理解できるということですので、そういうオペレーションPDCAが回る環境を整えていきたいです。
「現場第一」の開発で他業種、他拠点への水平展開を進めたい
赤堀:ところで今回JDSCさんはかなりの回数現場に足を運んでいただきましたが、他のプロジェクトでも同様なのですか?
佐藤:はい。基本的に現場を知らないとどうにもならないと思っているので、物流に限らず、誰よりも現場に足を運ぶようにしています。データサイエンスは魔法ではないので、いかに現場のことを正しく理解できるか、いかに課題を設定して解決策を当てはめていくのかがポイントになります。
黒田:今回も、弊社のコンサルタントやデータサイエンティストが印西含めた3拠点にお伺いし、「この拠点は棚から倉庫まで距離がある」「拠点によってソーターや機器が異なる」という具体的な環境の違いをアルゴリズムに取り込んでいます。現場に伺うことで、拠点ごとにオペレーションや出荷受注の締め時間が異なるということを認識しました。そうした気づきがシステムと業務のインテグレーションで大事になってきます。
赤堀:我々も机上の空論にならないように、なるべく現場の声を拾うように意識はしていります。今後プロジェクトを進めるうえでも現場第一の姿勢でやれればと思っています。
佐藤:今後はどのようにサービスの運用範囲を広げていきたいですか?
赤堀:AIがすべてを解決してくれるわけではないので、オペレーションを定着させるためには使う側の人間の意識から変えなければいけないと思っています。それができれば、他の拠点にも展開していけるのではないでしょうか。
田原:まずは現在導入済みの3拠点で、フル活用することを目指したいです。そしてゆくゆく、このシステムを使ってセンコーは精緻に現場監理をできているということを売りにできれば、お客様への提案の武器にもなると思います。
黒田:現在、システムが稼働してデータもたまり始めているところです。AIはデータを基に予測最適化していくので、導入当初に比べて精度がアップして職長さんの感覚に近いものになっているかと思います。それがどれだけ職長さんの頭に近いものなのかということを認識してもらうことが重要ですので、これからも可視化、予測最適化を中心にセンコー様とタッグを組んでいきたいと思っています。
佐藤:流通ロジスティックスカテゴリの中で、ファッション以外の商材にも広げていくことにもトライしていきたいですね。
赤堀:いろいろな業種固有のオペレーションがある一方で共通している部分も多くあるので、最大公約数を見つけて水平展開しやすい仕組みにしていくのも手だと思います。現場と議論しながらブラッシュアップしていきたいです。
佐藤:物流業務は荷主の要望にこたえなくてはならないために自分たちだけですべてコントロールできないことが業務高度化に向けて難しいですが、チャレンジさせていただけてありがたいです。御社の業務を変えることは社会全体にも大きなインパクトを与えていくことだと思いますので、引き続き連携しながら進めていきたいと思います。
本日はありがとうございました。
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■センコー株式会社
常務理事ロジスティクス営業本部 ファッション物流営業部長
赤堀 裕 氏
1997年センコー株式会社入社。情報システム、コンサルティング部門を経てロジスティクス営業本部に所属。流通・小売業界の荷主を中心に物流センターの設計、運営・改善を担当。
■センコー株式会社
ファッション物流営業部 主任
田原 裕也 氏
2018年センコー株式会社入社。ロジスティクス営業本部に所属。スポーツアパレルの荷主を中心に物流センターの設計、運営・改善を担当。
■株式会社JDSC
ディレクター 黒田 洋輔
■ファシリテーター
株式会社JDSC 常務執行役員COO
佐藤 飛鳥
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