全部お見せします! ダイキン工業 DX人材育成の最前線 〜ダイキンDICT生と関係者による本音座談会〜

全部お見せします! ダイキン工業 DX人材育成の最前線 〜ダイキンDICT生と関係者による本音座談会〜

JDSCと協業をしていただいているダイキン工業は、デジタル技術の活用にはIT知識だけでなく、現場体験と一体にして実効性を追求することが重要という考えのもと、2017年12月に社内講座「ダイキン情報技術大学(DICT)」を開校しました。DICTでは「業務推進にあたり、デジタル技術が分かる・使える・テーマを推進するDX人材」の社内育成を推進するために、全職種の新入社員から選抜した人材が2年間にわたる教育を受けています。1年目は座学中心で、2年目は前期/後期に2件の社内の課題を題材としたPBL(課題解決型学習)プロジェクトを担当。3年目以降は各部署へ所属されることになります。

両社はルームエアコンに関する不具合検知から運転データ分析、業務用空調に関するデジタルツインの構築までさまざまな協業を行うとともに、DICT生の養成でも強固な協力関係を築いています。果たして現場の様子はどうだったのでしょうか?今回はグループリーダーの池田基伸さん、DICT出身の熊本光さん、川勝太郎さんと、JDSC社員による座談会を開催しました。

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■本日の登場人物
ダイキン工業 堺製作所 空調生産本部 デバイス技術グループ グループリーダー 主任技師 池田 基伸さん(画像左から3人目)
空調機のプリント基板のハードウェア、ソフトウェアの設計に従事。ソフトウェア技術者が新しい価値を生み出すことを目的とし、データ分析の取り組みも始めた。

ダイキン工業 空調生産本部 デバイス技術グループ 熊本 光さん(左から2人目)
2021年入社で3年目。大学時代はロボット系の研究を担当。DICTを経て空調生産本部デバイス技術グループに所属。データ分析やデータ活用推進の業務を行う。担当は、住宅用ソリューションを実現するための故障予知機能の開発や、ビッグデータ分析基盤の運用。

ダイキン工業 テクノロジー・イノベーションセンター(TIC) 川勝 太郎さん(右から3人目)
2021年入社で3年目。大学時代はシリコンレーザの性能向上に取り組む。DICTを経てTICのZEB・エネマネグループに所属。デマンド制御サービスの高度化プロジェクトに従事。

JDSC 執行役員 佐藤 飛鳥(右から1人目) 、VP of Data Science 中橋 良信(右から2人目)、データサイエンティスト/マネージャー 中上亮(左から1人目)

第一章 早くアウトプットを出さないと、次につながらない!

JDSC 佐藤
今日は宜しくお願いします!
緊張せず、楽しい雰囲気でいきましょう。思い返せば、ダイキンさんとJDSCのお付き合いは2020年10月からですので、もう3年になります。そういえば、そもそものきっかけって米田さん(ダイキン工業常務執行役員 米田 裕二 氏)ですよね?

ダイキン工業 池田
はい。昼休み突然米田から突然電話が鳴りました。当社はフラットな組織なので、どんな役員からも直接電話がかかってくるので驚きはなかったんですが(笑)

私がいる空調生産本部には、部署を問わずにやりたいことに手を上げられる「この指止まれプロジェクト」があります。このプロジェクトの中で、色々な部署の若手と市場不具合データから増加傾向を早期検出しアラームを出す取り組みをしていたため、米田から「JDSCというAIベンチャーがいるから話を聞いてみたら?」と仰っていただきました。

JDSCさんを存じ上げなかったのですが、データ分析のベンチャー企業というとコンサルのご相談が中心のイメージがあり懐疑的でした。しかし、僕らにはない長期データの分析技術があることがわかり、トントン拍子に話が進みました。空調って「短いスパンのデータを見て制御する」ことが基本になっているため、長期間のデータをみる機械学習の技術が乏しく、とても良いタイミングでした。

ダイキン工業 池田 基伸さん

佐藤
JDSC側も空調機器自体にそこまで詳しいわけではなく、またダイキンさんの社内事情も分からないので、最初は教えていただくことばかりでしたよね。そして、議論を重ねて、不具合検知から運転データ分析、デジタルツインの構築とテーマも拡大。そして、対象もルームエアコンから業務用マルチエアコンへと3年間で色々進化してきました。これって池田さんが意図的にステップを作ってくださったからですよね。

池田
新しいことをやるときはまずアウトプットを出して、結果がでると次につながると思っていました。 最初に「不具合検知アラーム」を一緒に取り組み、JDSCのレベルが高いことが理解できました。機械学習を使うと、数年レベルで検知が早くなり、お客様の満足度は上がりますし、年間数億円のコスト削減もできました。これが実現できたから、次のステップに比較的簡単に進むことができました。

佐藤
順風満帆ではなかったですし、苦労もありましたね。池田さんには助けてもらってばかりでした。サービス本部や商品開発メンバーを巻き込んでいただいたり、ルームエアコンから業務用に検討を広げるところも進め方を助けていただいたり。

池田
そんな認識はないですが(笑)、そう言ってくださるのは嬉しいです。

佐藤
いやいや、ダイキンさん、池田さんのおかけです。ねぇ、中上さん!

JDSC 中上
はい!実際にダイキン社員の皆さんにはたくさんのご助言をいただいて、感謝してもしきれません!

池田
僕らの方こそ感謝しています。JDSCさんは、技術を開示いただき、最後は我々ができるところまでサポートしてくれるところです。JDSCさんとルームエアコンで作ったシステムは、弊社でエコキュートに展開や、海外のプロジェクトもスタートしようとしています。さらにシステムが複雑な業務用へと展開は一緒にさせていただけることが本当にありがたいと思っています。
 

第二章 ドメイン知識がないと何にもできないよ!


池田さんには、初期から社内の多くのスペシャリストを幅広く巻き込んでいただき、タスクフォースとして進める調整をいただいたと思います。池田さんのプロジェクト推進のお考えをお聞きしたいです。

池田
データ分析ってみな大事でやりたいと思っているが、なかなか取り組めない。メンバーそれぞれが担当している領域がデバイス、モーター、品質管理、信頼性、開発企画、ITなどと違っていて、また、空調機の動きは知っているけどプログラムを書けなかったり、その逆のパターンもあります。だから、目的が同じであるやりたい人を集めて議論し結果が見えたら、進み出すと思ってました。

他の会社では色々な部署を集めることが難しいと仰っていただきますが、このフラットな組織は弊社のDNAみたいなものなので、苦労しているわけではなく当たり前になっているところです。

佐藤
専門家は自分の領域に自負を持っていらっしゃるので、一緒に変化を起こすには少し時間がかかりますよね。こういう点でも、池田さんにはうまく組んでいただいたので、腹を割って話せるまでには時間が少なく済みました。そしてなにより、各領域のスペシャリストがいなければプロジェクトは進まなかったですよね。

池田
それはありましたね。最初は、皆自分も苦労してやってきたので自分のやり方を譲らない。しかし、JDSCさんのデータを扱う量と分析のスピードに皆驚き、方向性が定まって各自の役割を果たすようになってきたと思います。

JDSC 中橋
これは特に、DICT生である熊本さんや川勝さんが感じられていたと思いますが、分析した結果が得られても、その解釈は我々だけではできません。社内のスペシャリストにデータ分析結果を持っていくと、専門的知見で見てくれて仮説もくださる。我々はデータ分析のスペシャリストという自負はありますが、データ分析だけでは物事が進まないということを日々痛感しています。

中上
そうですね。細かい話になってしまいますが、データを見ただけでも「これは油戻しが原因だから」と説明いただいたり、「各室内機のセンサー設置場所やセンサー自体の種類が違うから各センサー値は本来的には相対的指標として解釈すべきだけど、分析上は絶対値として見ていいよ」とか「ガス管と液管の違いと系統図を踏まえた関係性」とか、スペシャリストが見てくださるのは心強いです。

データ分析の結果を、どこまで譲っていいのか、どこまで説明できなきゃいけないのかということをドメイン知識の観点から助言をいただける。これはモデルに組み込むにあたって本当に役立っていて、ありがたく感じています。

池田
そうなんですよね。 DICT生にもドメイン知識がないと何にもできないよ、と。

ダイキン工業 熊本
エコキュートの故障検知をやろうとする時に、サービスガイド(現地修理SE用の修理マニュアル)をめちゃくちゃ読み込んでいます。そこにドメイン知識が集結されているんです。それでも分からないときに品質管理の担当者に話を聞きに行ったりしています。今まさに勉強しています。

ルームエアコンの時は「再熱除湿って何やねん」とか「液管温度と中間温度がなぜ変わるのか」とか細かい製品仕様を講義してもらったり、電話で教えてもらったり、社内で協力を得ることができて進めやすかったことを覚えています。社内の空調スペシャリスト、すごいです。

ダイキン工業 熊本 光さん

佐藤
DICT生を巻き込んで、社内に技術を伝承していこうというアイデアも、池田さんからでしたよね?

池田
データ活用Gの基幹職とも議論しました。 DICT生の話を聞くと「はじめはデータ分析したい」と言うのですが、後々「POCだけでは飽きるので、空調機の制御をしって根幹にかかわりたい、皆が使うアルゴリズムを作りたい」という思いを持つことが多いようです。DICTの制度をつくったときには社内にデータ分析できる人がいなかったですし、長期データを分析するのが得意な人もいなかった。

JDSCというプロの人とやったほうが良いし、それを学んだ人が次の人を教育していける体制ができると良いと思いました。 二人は、選ばれてラッキーだったよね?

熊本
やる前は分からなかったですが、 今はラッキーだと思っています。

池田
僕自身、若い人が刺激を受けていたので、方向性は間違いはないと思っていました。
 

第三章 密なコミュニケーションが程よいプレッシャーに!DICT生の本音

佐藤
川勝さん、一般的にダイキン社内で行われていたPBL(課題解決型学習)とは違うPBLだったと思いますが、最初に話を聞いたときどう思いました?

ダイキン工業 川勝
実は、それほどこれが特殊ということには気づいてなかったんです。前期のPBLで与えられたテーマは、偶然にも6月ごろに突然、部門横断のプロジェクト内に組み込まれました。このテーマは引継ぎテーマでもあったので、こういう大きなプロジェクトの一部を担うことは珍しいことでもないのかなと感じていました。

熊本
DICTの前期は、データ活用推進グループでデータ基盤をつくることをやっていたので、最初にこの部署に来たとき、データ基盤の発展や、システム開発系のテーマを担当すると思っていたんです。ただ、実際担当したのは分析テーマでした。。正直自分は分析スキルがあまりなく、DICTで学んだだけだったので、右も左も分からない状態でした。

本当にたまたまJDSCさんからスキル継承していただき、分析プロセスを伝授していただいたので、すごく運が良かったと思います。ゼロから一緒に伴走していただいて、ありがたかったです。

川勝
こういうラッキーはあまりないんですよ!配属先によっては、「既に1年間、データサイエンスを学んでいるからデキるプロフェッショナルだ」と思っている方や、テーマを与えられても技術が追いつかずできる範囲が限定されるケースもあります。こんな感じにプロのデータ分析プロセスを教えてもらえる機会はなかなかないので、非常に良い経験ができたと感じています。

ダイキン工業 川勝 太郎さん

池田
僕らは技術がないことを分かっているから、DICT生を迎える時にうまくコラボできたんだと思います。

佐藤
JDSC側も、日々の進め方やタスクの分解の仕方、渡し方は工夫していました。

中橋
そうですね。まず、細かく接点を持つことを意識しました。データ分析って開発プロジェクトと違って、分析してみるまでどの程度十分な結果が得られるか分からない。結果を見て次のアクションを決めていくというプロセスを繰り返していきます。となると、タッチポイントの間隔が空くと、それだけ待つ時間が増えてしまうし、自分の頭だけで考えなきゃいけなくなっちゃうんです。そうするとPDCAサイクルを回すのが遅くなってしまう。

データ分析はこのサイクルを回せば回すほど品質が高まっていく傾向があるので、その間をあまり空けないように、基本的には毎朝顔を合わせて、分析結果を細かくフィードバックできるようにしていました。 毎朝の顔合わせも常にオンラインではなく、月イチくらいは対面で膝つめ、そして付きっきりで一緒に取り組むという、良い座組になりました。細かく細かく確認できたことが良かったです。

佐藤
お二人は、この頻度はいかがでしたか?

川勝
何十万件というビッグデータを分析するためにSQLを使う必要があったのですが、実はこれまで触ったことがなかったため、クエリ作成に手間取っていました。でも、JDSCさんとは高頻度で接点があったので、次回のタッチポイントまでに、分析プログラムを作るだけではなく何かしら次の議論ができるような結果を出さねばならないと常々考えていました。「プログラム作成途中です」だと、「そうですか」の一言で終わってしまうので。それはちょっともったいないなと。それが良いプレッシャーになったと感じています。実際は大変でしたけど(笑)

熊本
分析がしょぼすぎると質問も相談もできないので、良いプレッシャーをいただいていたなぁと思ってます。最初の方は、期待されている分析内容を飲み込めずにやったことをただ話して、相談したいこと、議論したいポイントがまとまっていないこともあったと思いますが、その後自分なりに振り返って、ちょっとずつ良くなってきたかな、と。

中橋
川勝さんは、仮説をすごく作り直していましたね。あの期間ではなかなかできないです。すごいと思いました。

中上
僕がすごいなと思ったのは、仮説、分析計画を立てるときですね。方向性調整が大事なんですが、分析を進めていくと議論が細かいところに行ってしまうことが多々あるんです。お二人はちゃんと大筋を捉えた上で、ここはできる、諦めるといった線引きをしていた点が素晴らしかったと思います。

川勝
定例会では、JDSCさんだけでなく、プロジェクトにご協力いただいているたくさんの方からアドバイスをいただくんですが、それを全部試すことは時間的にできないんですよね。そんななかで、最終的なゴールを達成するためには、どれをやるか、大切だというのを、DICTの先輩である大鹿さんとも話し合いながら、優先順位をしっかりつけながら進めました。

最初の頃は全部やらなきゃと思って、てんやわんやになってしまっていたんですが、だんだん自分で「これは今回のスコープ外だ」と判断できるようになりました。

熊本
切り捨てたり、優先順位をつけることは当然なんですけど、逆に切り捨てたものが自分のスキル不足のせいだったのではないかと後で思うこともあって、もう一個、仮説検証を回していたら良かったな、なんて考えることもありました。とにかく、妥協しないことが大事だと思いました。

中上
前提条件として、お二人とも「教師なしデータ」を用いてたので、そこがハードルが高いんですよ。やりきっただけで、凄いと思いますよ。

佐藤
データ分析は、もともと学生時代に経験されていたんですか?

川勝
僕はDICTで初めてデータ分析をやりました。大学時代には少しだけ他の人が作った機械学習を触ってはいたのですが、あくまでプログラムのパラメータを変える程度でして。そのため、「分析って何すりゃいいの?」からのスタートでした。

熊本
僕も全く経験がありませんでした。DICTはモデルの使い方とか予測精度を競うコンペはあったのですが、今回、本当の課題解決するための分析をできるようになって、この方が実益寄りで、本当のドメイン、業務領域に入れたので貴重でした。

佐藤
池田さんは、お二人の活躍をどう見ていらっしゃったんですか?

池田
嬉しいです。普段聞けない話で(笑) 先輩もいましたので、途中からは余計なことを言わないほうが良いと思って見守ってました。最初は僕らも、どこまでJDSCに頼って良いか分からなかったのですが、頻繁に顔を合わせ人柄も分かってきてから密な連携が進んでいったと思っています。
 

第四章 「おぉ、すごいね」と言われることを実装したい!未来に向けて

佐藤
DICTというダイキン工業として注力されている取り組みにおいて、JDSCとの密なプロジェクトを経験をしたお二人は、今後どういうことをやっていきたいのか、どんなスキルを身につけたいか教えてください。意気込みもぜひ。

熊本
今、プロセスイノベーション、プロダクトイノベーションが求められています。後者は短期では難しいところがありますが、10〜20年後に大きなイノベーション実現に具体的なソリューションの構築という形で貢献していきたいと思ってます。

そこに行くまでに、前者のプロセスイノベーション、つまり社内課題、生産性を向上させるところで経験を積んで、データサイエンスやデータ活用のプロフェッショナルを目指して、最終的には大きな効果を出したいです!

池田
頼もしいですねー(ニコニコ)

川勝
データ分析とは少しずれるのですが、データ分析の結果を実装してユーザに価値を届けられるようになりたいです。データ分析をJDSC様とご一緒させていただく中で、良い分析をしてもそれだけでは片手落ちで、実装できて初めて「おぉ、すごいね」と価値として伝わるということを凄く感じました。

現在取り組んでいるプロジェクトでは、作成したロジックをAWSに実装するフェーズに入っています。ここからさらに運用まで経験を積んで、一気通貫で成果を出せるようになりたいと思っています!

佐藤
JDSC側も聞いちゃいましょうか!

中橋
私も凄いことがしたいです。以前、コンサルティングファームに在籍していた際にいろんなプロジェクトに参画しましたが、個社単位のソリューション検討ばかりでした。ダイキンさんとやれば「都市全体の空調設計」や「エネルギーの最適化」とかが現実の物に見えてきて、コンサル一人や一企業では叶えられないことができます。空調以外の様々な機器を組み合わせて、都市のエネルギー課題を変えていくようなことをやれたら非常に嬉しいです!

(左から)JDSC 執行役員 佐藤、データサイエンティスト 中上、VPoDS 中橋

佐藤
エネルギーという文脈だと空調の割合が大きいので、空調の会社がリードしていくことは実現性もありますし、良いですよね。中上さんは?

中上
僕の中ではまとまった答えがないのですが、プロセスという観点だと、データを正しく使って正しい意思決定が実現できるプロセスに興味があります。プロダクト観点では楽しいことをやりたいです。

池田
いまは時代の転換期になっています。デバイスや半導体の分野もそうですし、すごく変わりつつあり、乗り遅れたら負けというプレッシャーがあります。僕は、ソフトウェアが本当のキーであり、想像できることはいつか技術でできると思っているので、そこに誰かが手を打って動いてくれていたら、未来は明るいと思っています。

今日は二人の話を聞いて、こういうところを担ってくれる人がいることに感動しました。そういう仕事を増やし広げていくことが僕の仕事です。データからマーケティングして、最後はビジネスにつなげてほしい。これからも得意分野の人が集まって新しいことが生まれる仕掛けとか仕組みをつくっていきたいですね。

佐藤
本日はありがとうございました。これからも宜しくお願いいたします!

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