“空気で答えを出す会社”の理想形を目指して。エアコンAI化に挑戦した、ダイキン工業とJDSCの魂の軌跡

“空気で答えを出す会社”の理想形を目指して。エアコンAI化に挑戦した、ダイキン工業とJDSCの魂の軌跡

2020年10月の資本提携以降、ダイキン工業とJDSCはIoTデータとAIを用いた空調事業のアップグレードと顧客体験の向上に取り組んでいます。2022年3月には、空調機器のIoTデータを用いた不具合監視・運転異常予兆検出AIの開発結果を発表。今後のAI活用に向けてひとつのモデルを構築しました。また、更なる挑戦が継続されているようです。この事例はどのような過程を経て実現できたのでしょうか。プロジェクトを牽引するダイキン工業CVC室の三谷太郎さん、安井俊介さん、そしてJDSCの佐藤飛鳥さんを招いて伺います。

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本記事の登場人物


「経営の上段で議論できるAIベンチャーはなかなかいない」

― 両社が共同でAIの開発に取り組むようになったのは、どのような背景があるのでしょうか?

三谷:弊社は、2018年12月に東京大学と産学協創協定を結んで以来、「未来ビジョンの協創」「未来技術の創出」「ベンチャー企業との協業を通じた新たな価値の社会実装」の3つの協創プログラムに取り組んでいます。その一環でベンチャーキャピタルのUTECからご紹介いただいた企業の1つがJDSCでした。その後、共創の道を探るなかで資本提携に至っています。

数あるAIベンチャーのなかでJDSCが特に長けていると感じるのは、「経営目線で話ができる」点です。弊社には取り組まなければならない課題が山積しているのですが、一方でプロセスを改善するのではなく、そもそもの施策自体が必要なのかというところまでさかのぼって話さないと意味をなさない場合もあると思うんですね。そういう上段の議論がJDSCとはできるので、本当の意味での企業改革に取り組めるのではないかと考えています。

佐藤:我々は具体的なソリューションを直接的に導入している会社ではなく、もう少し上段の部分でそもそもどういう姿を実現しなくてはならないか、意見交換を重ねながら手法を決めていくのを得意としているので、どうしてもパートナーとなってくれる方々のご協力が必要なんですね。だから、こうして機会をつくっていただいた2人には、足を向けて寝られないぐらい感謝しています。

ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター 副センター長 兼 CVC室長 三谷氏

三谷:ただ、最初から取り組むことが具体的にあったわけではなく、まずは社内ヒアリングを実施し、各部門が抱える課題に対してJDSCであればどういうことができそうかを検討しました。そのなかで最初に取り組んだのが、家庭用エアコンに関する、不具合監視AIと運転の異常予兆検出AIの開発です。

安井:不具合監視に関しては、各所から集めたエアコンの不具合情報に関して、これまでは膨大なデータを人力でエクセルに集計し、感覚的に閾値を決めて、設計を改善するべきか否かを検討していたんですね。ただ、その方法だと3年近くはデータを蓄積しないといけませんでした。JDSCさんと協業して不具合監視AIを開発したことにより、この蓄積期間を1年以上短縮することに成功しました。つまり、一定確率で故障が起こる状態を短縮し、早期に故障が起こらない状態を実現することができています。

もう一つは異常予兆の検出AIです。異常が起こっている箇所の特定が遠隔で実現できるほか、従来ではわからなかった異常の発生予兆の検出もできるようになっています。

ダイキン工業・JDSCが共同開発した「不具合監視・運転異常予兆検出AI」の概要

ー プロジェクトの初期段階において、お三方はそれぞれはどのような役割を担っていたのでしょうか。

三谷:私は先ほど話したとおり、弊社のなかで各部門に足を運び、中期計画の実現に向けた具体的な課題について、意見交換を重ねました。そのなかでJDSCがハマりそうなものがないかを探り、安井にバトンを繋ぐまでを担当しています。

安井:私は実働の部分ですね。どの企業でも起こることだと思うのですが、部門のトップが承諾しても、下にいるメンバーが動き出さないことがあります。ただ、それは当然の話でもあって。通常業務があるうえに別のプロジェクトにまで目を向けるのってなかなか大変なことだと思うんです。そこで私が舵取り役となり、どの順序でいつまでにやるかを決め、一緒に取り組んでいくための道筋を立てて並走していく役割を担いました。

佐藤:総論としてのYesを部門のトップから取ってくるのが三谷さんで、そこから具体的なプロセスについて話を詰めていくのが安井さんだとしたら、僕は「こんなことができます」という提案をする役割でしょうか。お二方とも会社がどういう技術戦略でやっていきたいのかを熟知していますし、それと同時に何が足りていないのかについても理解しているので、私としてはものすごく動きやすかったです。

株式会社JDSC 執行役員 DXソリューション事業部 佐藤

【超えた壁#1】メンバーの信頼を勝ち取ることが、プロジェクト推進には必要不可欠だった

ー 両社にとって初の共同プロジェクトということで、最初は思うように進まないこともあったのではないでしょうか?

佐藤:正直な話、我々は外様の人間なので、最初はなんぼのもんじゃい感がダイキン工業社内でもあったと思います(笑)。

安井:実は、最初は私も三谷も探り探りだったんですよ。というのも、ダイキン工業は大きな組織なので、当然ながら面識がない社員も大勢いるんですね。そのなかで私たち2人はダイキン工業とJDSCを繋いでいかなければならなかったので、円滑にプロジェクトを進めるためにも慎重に立ち回る必要がありました。ただ、取り組みやすい課題から着手できたので、思った以上に円滑に物事を進められたと思います。

佐藤:そのあたりはお二方に支えていただいてる実感があります。企業を動かして新しい価値観を生み出していくためには、技術があれば済むものでも、ビジネス視点があれば済むものでもなく、なかにいる人たちをどうやって動かしていくのかがすごく重要なので。座組みをつくっていただき、実際に動ける体制ができてはじめて私たちが役立てる場面があると思います。

ー その点、どこかで風向きが変わる瞬間があったのでしょうか?

安井:確か3回目のミーティングのときにムードが変わったと感じる瞬間がありました。最初のとっかかりとして、開示できる情報をもとにJDSCにデータの解析をお願いしたんです。それに対するリアクションがすごくよくて。うちだったらこんなにたくさん工数かかったのに、それを1週間でやったんですか! みたいな。

佐藤:データ量が多いものを分析するのは、我々がもっとも得意とするところなので。とはいえ、最初はどうすればプロジェクトに参加いただくメンバーの方々から信頼を得られるかわからない部分も多かったんですね。まずは解析をしてしまうほうがいいのか、それとも議論を深めるほうがいいのかっていう。それで両方やらせていただいたうえで、今回は前者のパターンが効果的だったということだと思います。結果として、次のテーマにも取り組むことができましたから。言葉はあれですが、入門試験にパスしたような感覚です(笑)。

安井:そういったムードも正直あったと思います。実際、我々としては2つ目の課題をどうにかしたい気持ちのほうが強かったんですね。ただ、1つ目の課題をクリアしないと手をつけられない社内事情もありまして。それがスムーズに解決できたから、次に進もうという雰囲気になったと思います。

ー 2つ目の課題は具体的にどういうものなのでしょうか?

安井:1つ目の課題がマクロなデータを活用した事例だとすると、この取り組みではご家庭に設置されているエアコン1台ずつに搭載されたWi-Fiを利用して運転データを収集し、不具合の監視に役立てようというものです。

これまでは不具合が発生した際に、お客さまのところに何度も足を運んで確認しなければ原因がわからなかったのですが、今回の取り組みによって故障原因や故障個所の特定がある程度できるようになりました。お客さまからコンタクトセンターに連絡があった際に、必要な部品のみを持って現地に訪問することができ、ダウンタイムの短縮につながりました。

部門の壁を越えたPDCAの活動

佐藤:運転データの解析と活用はダイキン工業が「空気で答えを出す会社」になるために重要な段階だと思うので、我々としても大きな貢献ができたと考えています。

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【超えた壁#2】両社が取り組むさらに高い壁。業務用エアコンのAI化

ー 両社は2つのプロジェクトで実績を上げていますが、現在はどのようなことに取り組んでいるのでしょうか?

安井:さらに話が進み、ビルなどに設置されている業務用エアコンのAI化に取り組んでいます。

佐藤:売上も利益率も家庭用エアコンより高い商材なので、ある意味ここからが本番なのかなと思うところです。事実、以前より難しいデータ解析にチャレンジさせていただいてると私は認識しているのですが、実際はどうなのでしょうか?

安井:難しいと思います。ダイキン工業でもこれまでさまざまな取り組みを実践してきていますが、かなり苦労しているので。というのも、ビルは一棟ごとに形も違えば、配管の長さも違いますし、室内機と室外機は複数対複数でつなぎます。そういう条件下で最適な空調環境を構築しなければいけないので、家庭用エアコンとくらべると段違いにハードルが高いんです。

三谷:これまでもかなり高いハードルを飛び越えてきたとは考えているのですが、そうは言っても何かしらの結果を残さなければいけない状況だったので、ある程度の見込みが立つ課題を優先して取り組んできていたんですね。ただ、ここからは未体験の領域に入っていくことになると思います。会社にとってもインパクトが大きいですし。

ー 実際に取り組まれてみていかがですか?

佐藤:ものすごく難しいですね(笑)。ただ、ファーストステップ、セカンドステップを踏ませていただいたうえで、ダイキン工業のもっとも強みとしている商材に携わらせていただけるような間柄になったんだと思うと感慨深くもありまして。我々としても腕の見せどころなので、かなり力を入れて取り組んでいます。

三谷:今回のテーマが成功すれば、ダイキン工業とJDSCの協業において一定の成果が出せたという認識も高まると思うんですね。そうなると、これまで以上に社内からの引き合いも増えるだろうし、まったく異なる領域でチャレンジできる可能性も見えてくるんじゃないかなと。

【JDSCへの期待】DXスキルの平準化を目指した自走支援

ー 具体的にJDSCとはこの領域も一緒に取り組めるんじゃないかと考えていることはありますか?

三谷:その点でいうと、JDSCには人材育成の面でもサポートいただいています。弊社には500名を超えるデータサイエンティストが在籍しており、この数字は誇れることだと自負しているのですが、一方で経験値がまだまだ足りていないという課題がありました。たとえば生産現場であれば、師匠みたいな方がいて、技術や知識が脈々と受け継がれていると思うのですが、そういう存在がいなかったんです。その役割をJDSCのみなさんに担っていただいています。

DXスキル開発では、ダイキン情報技術大生(DICT生)を含むコーチと共同のチームで課題解決を行い、解析の型化とスキル移転を実施

佐藤:この表現が正しいのかわからないのですが、みなさん素晴らしい素養を持っていらっしゃいますし、すでに引き出しはお持ちになっています。その引き出しの選び方を実践を通して伝えさせていただいています。

三谷:このまま若手層が育っていけば、新しいテーマにどんどん進んでいけるのではないかと思うんですね。JDSCのような最先端の知見を持つ企業から実践を通して学べる機会はなかなかないことなので貴重な時間をいただいていると感じています。

佐藤:ありがたいことに、三谷さんからは「JDSCとしても、常に新しいこと、難しいことに挑戦してください」といつも言われているんですよ。JDSC内で先行して進めて、ある程度できることを証明したら、ダイキン社内のデータサイエンティストに引き渡していくことが求められています。

三谷:短期的には外部からリソースを供給し続けていただいたほうが効率がいいと思うんです。でも、それは私たちの目指す姿ではないんですね。既存のテーマは社内で対応できる体制を構築しつつ、一方でJDSCとはまだ取り組めていない未知の領域を切り拓いていきたいので。

“空気で答えを出す会社”の理想形。ゼロからプラスを生み出すフェーズへ移行したい

ー ダイキン工業とJDSCの協業のこれからについて、みなさんはどのように考えていますか?

三谷:「顧客体験の改善」と言ってしまうと普通の言葉として収まってしまうのですが、お客さまにストレスなく使っていただける状態をつくるのは、企業にとってすごく意味のあることだと思うんですね。そうした課題解決の積み重ねで生活はより快適になっていくと思うので、我々としてはそこに寄与できれば嬉しいです。

安井:私たちがすでに実現したことって、極端な話をすればマイナスをゼロにする施策じゃないですか。そこからプラスを生み出していくためには、新しいビジネスをつくる必要があると思うんです。なかなか難易度が高いことなので、ひと筋縄ではいかないとは思うのですが、そういったことにも今後はトライしていきたいと考えています。

佐藤:ダイキン工業が掲げる「空気で答えを出す会社」っていろんな捉え方があると思うのですが、現在取り組んでいるサービスレベルの向上の延長線上に我々の理想像があると思いますし、その実現を目指すことで両社の絆もさらに強くなっていくと思います。

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